2000 Fiscal Year Annual Research Report
ISO赤外分光データによる低温度星外層大気模型の検証と再構築
Project/Area Number |
11640227
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
辻 隆 東京大学, 大学院・理学系研究科, 名誉教授 (20011546)
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Keywords | ISO / 赤色超巨星 / 光球 / 彩層 / 恒星風 / 分子光球 / 水分子 / ダスト |
Research Abstract |
本年度は主として赤色超巨星の外層に新しい分子形成領域が存在することを確認し、その基本的特性を明らかにした: 1)最近のISOによりh+χ Persei星団の早期M型超巨星には水が同定された。一般星野のα Ori及びμ Cepなどの早期M型超巨星については、35年前にStratoscope IIとよばれる気球搭載望遠鏡により水が発見されていたが、その後、水ではなくCN Red Systemによるとの説が有力となった。この問題を解決するため、Stratoscope IIによるα Ori(M2Iab)及びμ Cep(M2Ia)のスペクトルの再解析を行った。その結果、0.9,1.1ミクロンの吸収は光球のCNによるとしてもよいが、1.4,1.9ミクロンの吸収は光球のCNでは全く説明できないことが明らかとなった。Stratoscope IIの観測で強い1.4,1.9ミクロンの吸収は、T_<ex>【approximately equal】1000K及びN_<col>【approximately equal】1-3×10^<20>/cm^2の水によるスペクトルと良く一致するが、光球モデルでは全く説明できず、その起源は光球外に求めなければならないことを示した。 2)最近公開されたISOアーカイバルデータに含まれているα Oriでは、H_2O ν_2バンドは吸収として観測され、水の存在が確定した。一方、μ Cepでは、水のスペクトル反転して輝線スペクトルとなっていることを見出した。さらに8μmよりも長波長域ではダストの熱輻射が顕著であるが、それにも拘らず40μm領域には水の純回転遷移が輝線として観測された。このように、水の輝線スペクトルが赤外領域で観測されたことは、氷が光球の外に広がった領域に存在することの明確な確証と考えることができる。簡単な作業モデルとして、μ Cepを取り巻く球対称の水蒸気雲を仮定し、光球スペクトルを境界条件として輻射輸達の方程式を解いて得られるスペクトルに、さらに外層のダストによる熱輻射を加えたスペクトルでISOの観測をほぼ説明することができることを示し、これから分子雲は光球半径の約2倍以上に広がっていることを明らかにした。このように、我々が当初から仮定していた外層における"温かい分子雲"の存在が、ようやく早期M型超巨星で確証された。この分子雲は水のスペクトル線にたいしては光学的に十分厚いので分子光球とでも呼ぶのが適当であろう。μ Cepほど明確ではないが、水は早期M型を含む赤色巨星・超巨星の外層に普遍的に存在すると考えられ、外層における分子光球の存在はこれらの星の基本的な性質と考えることができる。
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[Publications] T.Tsuji: "Water on the early M supergiant stars α orionis and μ cephei"The Astrophysical Journal. 538. 801-807 (2000)
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[Publications] T.Tsuji: "Water in emission in the Infrared Space obzervatory spectrum of the early M supergiant star μ cephei"The Astrophysical Journal Letters. 540. L99-L102 (2000)
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[Publications] T.Tsuji: "Dust formation in stellar photosphere"IAU Symp 177 Proceedings. 177. 313-324 (2000)