2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11640396
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
香川 貴司 奈良女子大学, 理学部, 教授 (30031686)
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Keywords | X線スペクトル / イオン衝突 / 原子構造 / 固体表面 / 中空原子 / Kα線 / 電子捕獲 / カスケード崩壊 |
Research Abstract |
低速高電離イオンと固体表面との衝突では、入射イオンが固体から、電子をその外殻軌道に捕獲して内殻にほとんど電子が詰まっていない中空原子(hollow atom)が形成される。 本研究では、ArイオンをSi固体に衝突させたときに観測された、入射イオンの速度依存性ををもつKαX線スペクトルに注目して、Arの中空原子が固体表面と相互作用しながら中性化される物理過程を理論的に解析した。この解析では、イオンが、Auger遷移と電子捕獲を繰り返しながら中性化してゆく過程を、時間を追って追跡するための速度方程式をもとにしたmultistep capture and loss(MSCL)モデルを構築した。固体表面下の崩壊に対するシミュレーションでは、衛星線(satellite line)からなるKαX線のスペクトルの形状は、電子捕獲確率の大きさに支配されていることをあきらかにした。さらに、表面上で生成された中空原子の崩壊過程に対して、Kα線を放出する励起イオンのみに着目すれば、表面下での崩壊過程を記述するために採用した同じMSCLモデルで使うことができ、すべての過程をMSCLモデルで統一的に扱えることをあきらかにした。スペクトルのシミュレーションに必要な電子捕獲確率の理論値は、古典力学を基礎とするclassical over-the-barrier(COB)モデルで求め、これが、入射イオンの速度に比例することを示した。最終的に、実験での入射イオンのエネルギーに対応したKαX線スペクトルをシミュレーション行い、表面上と表面下からのX線スペクトルの強度の寄与を別々に求めた。各入射エネルギーに対応したシミュレーションのスペクトルの形状は実験値を再現した。このことから、入射イオンの速度に比例して電子捕獲確率が大きくなることが、ArをSi固体に衝突させたとき観測されたスペクトルの形状変化の要因であると結論した。 また、Krイオンと固体との衝突でKrの中空原子から放射されるKαX線に対して、Auger遷移ではあるが、その確率が一桁大きいCoster-Kronig(CK)遷移の影響を理論的に調べた。その結果、CK遷移は低エネルギー部の衛星線の強度を押し上げることが分かった。また、高精度なX線スペクトルとこの理論解析からその遷移確率を実験的に決定できるとの結論を得た。
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Research Products
(7 results)
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[Publications] K.Suto and T.Kagawa: "Multistep-capture-and-loss model for stabilization processes of Ar hollow atoms formed in a solid"Phys.Rev.. A58 A63,. 5004-5007 (1998)
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[Publications] K.Suto and T.Kagawa: "Multistep-capture-and-loss model for stabilization processes of Ar hollow atoms formed in a solid"Phys.Rev.. A63,. (E)019903 (2001)
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[Publications] K.Suto and T.Kagawa: "Theoretical analysis of stabilization processis of Ar hollow atoms formed in a solid with the MSCL model"Physica Scripta. T80. 223-225 (1999)
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[Publications] K.Suto and T.Kagawa: "Theoretical analysis for stabilization processes of Kr hollow atoms"Physica Scripta. (accepted). (2001)
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[Publications] K.Suto and T.Kagawa: "Population analysis for atomic cascade decay processes"National Institute for Fusion Science Reseach Report, NIFS-PROC. 37. 228-235 (1998)
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[Publications] T.Kagawa and T.Kawasaki: "Relativistic theory of electron impact excitation of highly-charged ions"National Institute for Fusion Science Reserach Report, NIFS-PROC. 44. 118-119 (2000)
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[Publications] T.Kagawa: "Theoretical analysis of decay processes of inner-hole states of atomic systems"Reken Review. 31. 20-24 (2000)