1999 Fiscal Year Annual Research Report
繁殖・保護行動のエネルギー的基盤:テンジクダイ科魚類の種間比較
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11640633
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
柳沢 康信 愛媛大学, 理学部, 教授 (90116989)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥田 昇 愛媛大学, 理学部, 日本学術振興会特別研究員
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Keywords | 性役割の逆転 / 繁殖戦略 / 口内保育 / ヘテロ・カニバリズム / フィリアル・カニバリズム / 生理的コンディション / テンジクダイ科魚類 / 保護行動 |
Research Abstract |
雄が口内保育するテンジクダイ科クロホシイシモチは、性役割が逆転していないにも関わらず、雌がナワバリを保持する。そのナワバリは繁殖開始の2ヶ月も前から形成され繁殖期(5月〜10月)をとおして同じ場所で維持される。本年度は(1)クロホシイシモチの雌のナワバリの形成過程とその機能を明らかにすること、(2)ナワバリ維持にかかるコストを推定することを主な目的とした。野外調査を愛媛県御荘町室手海岸でSCUBAを用いて行ない、ナワバリに関して以下のことが明らかになった。(1)産卵前のペアにおいて、雌がナワバリ防衛を担い、その攻撃相手はほとんどが(あぶれ状態にある)単独雄であった。(2)産卵直後から雄が卵を口腔に収めるまでのあいだに、単独雄がしきりに卵の補食を試みたが、このヘテロカニバリズムは産卵前に単独雄の侵入頻度の高いペアほど高い確率で起こった。(3)ナワバリ雌のあいだでは雄をめぐる争いはまったく起こらず、産卵した次の日までに雌は必ず単独雄とペアを組むことができた。(4)ナワバリ間で単独雄の侵入頻度に大きな差があり、侵入頻度は周囲の単独雄の個体数密度と正の相関があった。これらの結果から、本種の雌の繁殖ナワバリの機能は配偶者を得ることよりも子の保護に強く関わることが明らかとなった。また実験室で脂肪・炭水化物・タンパク質含有量を各器官ごとに測定し、生理的コンディションの季節変化を雌雄で比較した。その結果、7月〜9月の繁殖盛期に総脂肪・総炭水化物・総タンパク質含有量が雄よりも雌で有意に低下することが明らかになった。雌がナワバリを形成しない近縁のオオスジイシモチでは雌より口内保育する雄のほうが生理的コンディションが低下することなどから判断すると、クロホシイシモチの雌にとってナワバリ維持のコストは相当に高いと推定された。また、このことが繁殖期における雌の高い死亡率の主要因になっていると推測された。
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[Publications] Okuda,N.: "Sex roles are not always reversed when the potential reproductive rate is higher in females."American Naturalist. 153. 540-548 (1999)
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[Publications] Okuda,N.: "Female mating strategy and male brood cannibalism in a sand-dwelling cardinalfish."Animal Behaviour. 58. 273-279 (1999)