Research Abstract |
本年は,残留応力・不均質材試験片として,ボルトを締結された試験片を用いて疲労き裂伝ぱ実験を行った.具体的に円孔を開け,そこにM10ボルトを通し締め付ける.試験片には,荷重軸に垂直で板厚方向の圧縮残留応力場が発生する.その圧縮残留応力場中に存在するボルト円孔の縁から,1/4楕円三次元疲労縁き裂を伝ぱさせた. また別に,この場合に対する寿命推定のためのき裂伝ぱシミュレーションも試み,き裂伝ぱ速度およびき裂形状の変化について,本シミュレーション結果と実験結果とを比較・検討した.その結果,以下の新しい知見を得た. 1.シミュレーション結果には,板厚方向の圧縮残留応力場の存在のために,表面方向のき裂伝ぱ速度が,深さ方向のき裂伝ぱ速度より著しく大きな値となる傾向が認められた.また,その圧縮残留応力が存在する場合には,存在しない場合に比べて,表面方向のき裂伝ぱ速度それ自体も大きくなる傾向が認められた. 2.実験結果では,表面方向のき裂伝ぱ速度が,深さ方向のき裂伝ぱ速度より大きくなるという傾向は,シミュレーション結果ほど顕著に現れなかった.また,摩擦のため表面方向のき裂伝ぱ速度それ自体も大きくはならなかった,これに対し,板厚方向の圧縮残留応力が存在する場合の試験片破面のビーチマークの形状を,存在しない場合のものと比較した場合,表面方向のき裂伝ぱ量が深さ方向のき裂伝ぱ量に比べ大きくなるという傾向は,シミュレーションと同様に明確に認められた. さらに,破面の弾性接触を考慮した残留応力場における三次元斜めき裂の伝ぱシミュレーションも行った.結果,残留応力の分布状況によっては,き裂伝ぱ経路が変化する場合としない場合があるという新しい知見を得た. 尚,次年度も継続してこれらのシミュレーションを続けると同時に,本年度行えなかった他の残留応力試験片および斜めき裂に対する実験は,次年度に試みることを考えている.
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