Research Abstract |
本年度は,以下の成果を得た. 1.本研究における最大の成果は,最少腺管単位で化生腺管を確実に選り分け,さらに選別された腺管から,効果的にRNAが採取できる条件を見い出した事である.今年度は,幽門部胃粘膜から分離収集した腺管を,70%エタノール固定後,Alcian-blue染色により杯細胞を同定,さらに形態学的特徴を加味することにより,位相差顕微鏡下で確実かつ効果的に胃型,腸型腺管を選別,採取することができた.これらの腺管からは,RT-PCR法によりcDNAの合成が可能であった. 2.一腺管からのcDNAの合成は手技的に困難であったので,differential displayは施行できなかった. 3.そこで化生の有無と亜型ごとに10腺管づつ集め,以下の解析を進めた.化生(-),中等度,高度の各腺管10個について,βアクチンと,大腸,小腸粘膜上皮細胞の分化誘導因子とされるホメオボックス遺伝子Cdx-1,Cdx-2各mRNAの発現レベルを,半定量的RT-PCR法により検討した.化生腺管においては,いずれも明らかな発現が認められた.大腸,小腸粘膜のそれと比較したところ,症例によりばらつきが見られ,明らかな傾向についてはまだ未確定である.一方化生の程度に応じて発現レベルが上昇していたが,Cdx-1,Cdx-2間の差は明瞭ではなかった.さらにMUC5AC,PgII,MUC2,villin,defensin 5についてもmRNA量を比較したところ,化生(-),胃腸混合型化生,腸単独型化生の各腺管の間で明らかに発現パターンに差異を認めた.発現パターンは,それらの遺伝子産物に対する抗体を用いた免疫染色の結果とよく相関した. 4.以上より,胃粘膜における腸上皮化生の出現には,腸型上皮細胞の分化誘導と維持に関わる遺伝子群が関与していることが明らかとなった. 5.現在これら遺伝子相互の関係を解析中である.
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