2000 Fiscal Year Annual Research Report
脳シグナルカスケードからみた情動・記憶・意欲障害の生化学的共通基盤に関する研究
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11670956
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
小澤 寛樹 札幌医科大学, 医学部, 助教授 (50260766)
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Keywords | 気分障害 / 精神分裂病 / ヒト死後脳 / G蛋白質 / 細胞膜内環境 / cAMP / アルツハイマー病 / 脳情報伝達系 |
Research Abstract |
G蛋白質をはじめとする膜蛋白質は、受容体や効果器といった他の蛋白質とのランダムな衝突によって共役が起こり、蛋白質同士の相互作用の特異性は、蛋白の持つ相互作用を起こす部位の三次元構造によってもたらされるとする考えが一般的であった。しかし近年、細胞膜におけるG蛋白質は細胞骨格など膜の構成成分と連関する事でその細胞膜内での可動性や分布が制限され、こういった膜の他の構成成分との共役が情報伝達の調節に関与していることが報告されている。そこで本年度では、G蛋白質を介した細胞内情報伝達系の変化のメカニズムを調べる目的で、気分障害と精神分裂病の死後脳を用いてG蛋白質の細胞膜内分布の変化について検索し、両疾患の比較検討を行った。うつ病患者死後脳では対照群と比較してGsαが細胞膜の中の比較的疎水性の低い部分に多く分布し、逆に疎水性が高く界面活性剤による処理を行っても容易に膜から離れない部分に存在するGsαの量は減少しているものと考えられた。それとは対照的に、精神分裂病群ではTX-100によって抽出されるGsαの量は対照群と比較して増加しており、Remainderの中に残存するGsαは減少していた。さらに精神分裂病者死後脳を用いたAC活性の測定の結果、分裂病群ではうつ病群とは対照的にforskolinあるいはグアニンヌクレオチド刺激性のAC活性の上昇傾向が認められた。以上の結果から、うつ病群と精神分裂病群の双方においてGsαの細胞膜内での分布の変化が認められ、Gsαと効果器(アデニル酸シクラーゼ)の共役に影響を与えていることが示唆され、うつ病・精神分裂病での脳情報伝達系(cAMP産生に関する)に影響を及ぼしていると考えられた。このことは昨年度の報告の報告を合わせると、これらの結果は症候学的・薬理学的に示唆されている情動・記憶・意欲障害(うつ症状、精神分裂病の陰性症状、アルツハイマー病)の共通性・差異の生化学的背景を推察させる所見と考えられた
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Research Products
(7 results)
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[Publications] Yamamoto-Sasaki M,Ozawa H ら: "Impaired phosphorylation of cyclic AMP response element binding protein in the hippocampus of the Alzheimer type"Brain Res. 824. 300-303 (1999)
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[Publications] 小澤寛樹: "気分障害におけるG蛋白質機能インバランス仮説."脳と精神の医学. 11. 83-94 (2000)
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[Publications] 小澤寛樹 ら: "トラゾドンと2次メッセンジャー系について"Progress in Medicine. 19. 2553-2355 (1999)
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[Publications] 小澤寛樹 ら: "感情障害とセカンドメッセンジャー-アデニル酸シクラーゼ(AC)系とホスホリパーゼC(PLC)系の不均衡仮説-"脳の科学. 21. 359-367 (1999)
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[Publications] Ozawa H ら: "Postnatal ontogeny of GTP binding protein in the human frontal cortex "Life Sciences. 65. 2315-2323 (1999)
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[Publications] 土岐完,小澤寛樹 ら: "気分障害の治療と病態におけるG蛋白質細胞膜内分布の役割"精神薬療研究年報. 32. 216-222 (2000)
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[Publications] Rasenick,MM.,Chen J and Ozawa H: "In Bipolar Medications.mechanismss of action.ed.Husseini K.Manii, Charles L.Bowden and Robert H.Belmaker"American Psychiatric Press, Washington, DC. 87-108 (1999)