Research Abstract |
癌の浸潤・転移は細胞骨格の変化,細胞外マトリックスの消失,細胞外マトリックス分解酵素(各種MMP)や血管新生因子の産生,細胞接着分子の発現と消失など色々な因子により成立すると言われている。われわれの研究はこれらの分子の発現制御に関連する転写因子の共通性に着目し,転写因子と浸潤・転移能の獲得の関係を解明しようとするものである。われわれは,同所性移植法にて浸潤・転移能に相違のあるヒト口腔扁平上皮癌細胞株(ヌードマウスの頚部リンパ節転移率:SQUU-Aは0%,SQUU-Bは86.7%,本研究者樹立)を用いて,転写活性および浸潤・転移関連分子(各種MMP,Timp,接着分子,細胞骨格,血管新生因子)の発現の解析を行った。 ゲルシフトアッセイにて,未刺激の状態では,転写因子AP-1,AP-2,SP-1の活性が両クローンともに認められ,NF-kappaBはほとんど認められなかったが,増殖因子やサイトカイン(TNF-α,HGF,TGF-α,TGF-β,bFGF,IL-1α,IL-1β,IL-8,IL-12)の刺激にて両クローン間の相違で特に興味を引いたのは,TGF-αの刺激にて高転移性クローンSQUU-BにAP-2の活性の増強を認めたことである。さらにin vitroの浸潤能の評価(ケモインベージョンアッセイ)を行うと,TGF-αにより,高転移性クローンSQUU-Bの浸潤能の著明な増大を認めた。また,TGF-αの刺激にて細胞外マトリックス分解酵素MMP-2の増強や活性が,SQUU-Bでは認められたが,転移能のないSQUU-Aでは認められなかった。われわれの癌細胞は異所性移植では浸潤・転移能を示さず,同所性移植により浸潤・転移能を獲得する。MMP-2はAP-2により転写制御を受けており,われわれの系における浸潤・転移能の獲得にAP-2による一連の反応が関与している可能性があるのでさらなる解析を行っている。TNF-α,IL-1α,IL-1βによりMMP-9の転写因子であるNF-kappaBの転写活性およびMMP-9の増大を両クローンに認とめ,両者間には差はなかった。
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