Research Abstract |
前年度(1999年)本研究において,光学活性2-(p-トリルスルフィニル)ピロール環窒素原子上にα,β-不飽和エノン基{=クロトノイル,(E)-シンナモイルおよび(E)-2-ペンテノイル}をもつ誘導体を合成し,これらをジエノフィルに用いる不斉ディールス・アルダー反応において,高い遠隔位不斉誘導の実現に成功した.この知見を基に,今年(最終年)度,付加反応における本スルホキシドの有用性をさらに実証すべく,同じ基質(クロトノイル,(E)-シンナモイル)を用いて,有機銅試薬による1,4-付加反応を検討し,以下の結果を得ることができた. まず,アルキル銅試薬を用いて選択性におよぼす効果を調べた.アルキル銅およびジアルキル銅試薬を用いた場合の選択性はいずれも低く,二種の付加体のジアステレオ選択性は30%を超えることはなかった.一方,アリールおよびジアリール(o-tolyl,p-tolyl,および1-naphthyl)銅試薬を用いると,(E)-シンナモイル体では,いずれも選択性が高く,一方の付加体(R配置)が優先して生成した(≧90% de).また,クロトノイル体との同じ銅試薬を用いた反応では,1-naphthyl銅で非常に高い選択性が見られたものの,他の2種の(ジ)アリール銅試薬では,中程度の選択性(60〜80%)にとどまった.主付加体{(E)-シンナモイル体からはR配置,クロトノイル体からはS配置}の絶対構造は絶対構造既知物質への誘導やX線結晶構造解析により決定した.得られた付加体は,反応後,アルコラートの作用により,光学活性エステルおよび不斉補助基を直接回収することに成功した. スルフィニル不斉補助基の回収が可能なピロリルスルホキシドの共役不斉付加反応の成功により,従来,特殊な基質を用いないと困難と考えられてきたスルホキシドの遠隔位不斉誘導が1,4-付加反応においても達成できることが明らかとなった.
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