Research Abstract |
一般環境中には,1945年以来実施されてきた大気圏核実験からのフォールアウト(Global fallout)として,物理的半減期が長く,しかも生物学的に危険なアルファー放射体の94番元素,プルトニウム(Pu)がすでに広く分布・存在している。環境中に存在するPuには,主に^<238>Pu,^<239>Pu,^<240>Pu,^<241>Puの4同位体が存在する。近年,このバックグラウンドPuに加えて,原子炉事故,核燃施設からの漏洩,廃棄物の海洋投棄など種々の汚染源からのPuも環境に負荷・増大しつつある。このため,今後の環境Pu研究には,これまでの^<239,240>Pu濃度に加えて,Pu汚染源の識別の情報も含めた総合的な取り組みが必要である。本研究では,Pu汚染源の識別に最も有効なPu同位対比,特に^<240>Pu/^<239>Pu比の測定法,ICP-MS,TIMSによる方法を確立し,実用化を目指して研究を進めてきた。 ICP-MSについては,昨年度,分析・測定法をほぼ確立し,今年度,実試料の旧ソ連核実験場セミパラチンスク周辺の土壌試料に適応して興味ある結果を得た。一方,表面電離型質量分析計TIMS(東大宇宙線研究所から移管)については,立ち上げは完了したが,Pu質量数領域に顕著な汚染が判明した。Pu標準試料を用いて,測定値の信頼性,測定精度の評価及びその問題点を検討した結果,現時点ではPu質量数領域のブランク低減の努力が不可欠であることが明らかとなった。現在,クリーニングを継続している状況である。 旧ソ連核実験場セミパラチンスク周辺の土壌中Puの結果については,1)汚染レベルは,国内(40-120Bq/m^2)の数-数百倍で,非常に不均一であること,2)そのPuは,加熱硝酸抽ではリーチングされない状態で存在(核実験時に溶融した土壌や原爆材料の凝集物に堅固に混入),3)実験場内の土壌Puの^<240>Pu/^<239>Pu比はICP-MSでの測定により0.04-0.05でGlobal falloutのみによって汚染された地域からの比0.18と比べて格段に低くほとんどが原爆級Puで汚染されていることが判明,4)実験場から距離が遠くなるにつれて,その比は増加するが,300km離れた約30万の人口のウスチ・カメノゴルスク市に於てでさえ原爆級Puの寄与が30-60%も有ることが明らかになった。現在,他の地域も含めて測定を継続している。
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