Research Abstract |
ヒト・カルシトニン(hCT)は,32アミノ酸残基からなるペプチドホルモンであり,溶質濃度と溶媒条件に依存して,アミロイドと推定される不溶性の会合体を形成する。hCTは,Asp15,Lys18,His20の3つの解離性残基をもち,C末端がアミノ化されている。溶液条件を規定する量としては,pH,塩濃度,アルコール含量が,hCTの構造状態の決定に関与することが分かっている。本研究の目的は,hCTが示す多様な立体構造転移の詳細と会合体形成の分子機構を明らかにすることである。 遠・近紫外CDスペクトルをプローブとする測定から,解離性残基が全てプロトン化されている酸性pH(2<pH<4.5)では,六弗化イソプロパノール(HFIP)の添加により,ランダムコイル(rc)構造からα-ヘリックスへの構造転移,rc→α,が起こることが分かった。一方,pH>4.5では,HFIPの濃度上昇と共に,rc状態から中間状態を経て,α-ヘリックス状態へ移行することが見出された。この中間状態のCDスペクトルは,β-構造をとることが知られている,poly-S-carboxymethyl-L-cysteineのそれに類似していること,ペプチド濃度の上昇により沈殿を生じることから,β-シート構造の生成が示唆される。すなわちこれは,rc→β→α転移と予想される。ただし0.5M NaCl存在下では,pH2.0でも,HFIPの添加により中間状態の生成が見られた。以上の結果は,解離基間の静電斥力の弱化が,中間状態の安定化に寄与することを示している。 pH7.0で,1%以上のペプチド濃度では,HFIPを5%以上加えると,瞬時に沈殿が生成したが,100%HFIP中では,沈殿は生じなかった。また0.0002%のペプチド濃度では,7%HFIPでも中間状態は6h後にも生成しなかった。このことは,中間状態の生成が多体反応であることを示している。
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