1999 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀前半のロシア・ソヴィエトにおける哲学的状況の再検討-A.ローセフの言語哲学的構想を中心として
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11710002
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
大須賀 史和 東京外国語大学, 大学院, 助手 (30302897)
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Keywords | ロシア / ソヴィエト / ローセフ / 言語哲学 |
Research Abstract |
実地調査の結果、本研究計画が対象とすべき資料の範囲が確定し、現在利用可能な必要資料はほぼ網羅できた。対象となるアルヒーフ資料として現存するものは、旧KGB(現連邦保安局)が所蔵していたタイプ原稿等約二千葉である。ここには多くの手書きの書き込みがあるため、校訂に多大な時間を要しているが、全体として作業は順調で、調査時にも決定版となるテキストの一つが刊行されている。これと共に、すでに絶版となるなどして、これまで利用できなかったテキストや研究論文などの資料も入手することができた。 研究者との情報交換からは、ロシアにおけるローセフ哲学の研究がまだ各論の検討段階にあり、本計画の言語哲学的な研究が寄与しうる余地が十分に大きいことが確認された。 テキストや関連資料の検討作業から得られた知見としては、ローセフの構想の背景としてロシア哲学に特徴的な形而上学的・存在論的な問題関心があること、それが言語哲学的な問題圏で展開されることで、ローセフ独自の「言語論的転回」として結実したことが明らかとなってきた。19世紀後半のロシアでは、東方教父哲学を含めた古典哲学研究が進展しており、新プラトン主義的な関心の現代的な再興として、物とそのイデア的本質とを総合的に把握するイデアリズムの構築が形而上学的な問題の中心に浮上しつつあった。こうした状況の中で、ローセフは物としての言語とその本質を問うことによって、「事物の背後にある本質」の追求としての形而上学から、言語を「事物の本質顕示」の場として捉える言語哲学の立場へ転換したのである。その結果、言語は単なる指示記号体系としてのみならず、意味や本質が顕現する運動を内包した自立的な存在=場として理解されることになり、こうした言語の側に立つ独自の客観主義の立場から言語哲学的な体系が構築されたと考えられるのである。
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