2000 Fiscal Year Annual Research Report
幼児期における「心の理論」と自己発達の関連性について
Project/Area Number |
11710059
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
木下 孝司 神戸大学, 発達科学部, 助教授 (10221920)
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Keywords | 自己認知 / 幼児期 / 時間的視点取得 / 心の理論 / 自伝的記憶 |
Research Abstract |
従来,幼児の自己認知は「マークテスト」と呼ばれる鏡像認知課題によって測定されてきた。それに対して,本研究では遅延ビデオを用いた自己認知課題を実施し,時間的次元を含んだ自己認知の発達を検討した。 1.3〜5歳児を対象に,被験児に気づかれないように頭部にシールを装着し,その時のビデオ映像を約5分後に遅延提示した。その結果,ほぼ全員がビデオ映像を見て自己同定できたが,実際にシールを取ったのは4歳以降であった。ただし,課題達成した者の中には,過去の自己状態と現在の自己状態の時間的関係を理解していない者が含まれていた可能性が示唆された。 2.そこで,自己ならびに他者がシールに気づいた時点に関する質問をあわせて行い,自己認知達成レベルを次の4つに区分した。レベル0:マークテスト不合格。レベル1:シールを発見するが,それに自分が気づいた時点を特定できない。レベル2:ビデオ映像を見て自分自身シールに気づいたことを自覚できるが,実験者の過去の認識状態を推測できない。レベル3:自己と実験者の過去における認識状態の相違を理解してシールを発見する。このうち,レベル2以上の者は遅延ビデオ映像を「ある特定の過去時点において自分に起こったこと」として認知していると考えられ,その基盤には時間的な視点取得能力の発達があると考察した。また,自他相互の視点取得を必要とする「心の理論」課題の成績もレベル2以上において高いことが明らかになった。 3.上記の実験実施後1年経過した時点で,その時の出来事に関する再認テストを行った。その結果,自己認知達成レベル2の被験児は,レベル1以下の者に比べ,再認成績が良い傾向が見られた。この結果は,時間的連続性を備えた自己が発達することと自伝的記憶の発生の連関性を示唆するものであり,今後,時間的視点性と自他関係性の相互関連をとらえつつ自己発達について検討する手がかりとなるものである。
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