2000 Fiscal Year Annual Research Report
幼児期における「自己と他者の理解」および「心の理論」の発達に対する養育環境の役割
Project/Area Number |
11710069
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
遠藤 利彦 九州大学, 大学院・人間環境学研究院, 助教授 (90242106)
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Keywords | 幼児期 / 表情認知バイアス / 養育環境 / 情動特性 / 情動表出 / DES(Differential Emotion Scale) |
Research Abstract |
私たちは、他者の心的状態を読み取り、理解しようとする際、他者の顔の表情を大きな手がかりとする。私たちの日常において、表情は、部分的に人の心を映す"窓"として機能していると言えるだろう。しかしながら、その表情という窓から何を読み取り得るかということには広範な個人差が存在すると考えられる。例えば、潜在的には意味中立の表情であっても、それを怒りの表出と読む者もあれば、悲しみの表出と読む者もあるかも知れない。既に成人に関しては、そうした個々人の表情読み取りのバイアスに焦点を当て、それと人格特性および生育歴等との関連性を問うた研究がいくつか存在している。しかし、発達の早期段階における表情認知の個人差に焦点を当てた研究は稀少であり、そうした個人差がどのような養育環境の要因によって生み出されてくるのかを解明することが現時点における大きな課題となっている。本年度の研究は、そうした課題に答えるべく企図されたものである。研究対象は4〜6歳(平均5.15歳)の保育園児とその母親、72組である。幼児については個別に、中立的な表情写真12枚を呈示し、各表情写真がどのような情動を表している可能性があるかを選択回答式で問うた(12枚を通じて、各児が喜び、興味、怒り、悲しみ、恐れ、驚きそれぞれをどれだけ読み取り得たかを数値化した)。養育者については、養育者自身が日常いかなる情動を経験しやすいか、あるいは表出しやすいかをDES(Izard et al.,1991)その他を通じて測定した。結果は、養育者の日常における悲しみの表出が多いほど、その子どもが本来意味中立な表情に過剰に悲しみを認知しやすいということを示すものであった。また、子どもの喜びの認知に関しては、その養育者の喜び経験が中程度の場合に、それをより認知しやすいという傾向が認められた。親の情動特性と子どもの表情の読み取りには多少とも無視し難い特異な連関があると言えるだろう。
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[Publications] 遠藤利彦: "表情を解体する:構成要素的アプローチから見る表情の本性"心理学評論. 43(2). 177-198 (2000)
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[Publications] 遠藤利彦,小沢哲史: "乳幼児期における社会的参照の発達的意味およびその発達プロセスに関する理論的検討"心理学研究. 71(6). 498-514 (2000)
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[Publications] 数井みゆき,遠藤利彦 他3名: "日本人母子における愛着の世代間伝達"教育心理学研究. 48(3). 323-332 (2000)
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[Publications] 佐久間路子,遠藤利彦,無藤隆: "幼児期・児童期における自己理解の発達:内容的側面と評価的側面に着目して"発達心理学研究. 11(3). 176-187 (2000)
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[Publications] 遠藤利彦(章担当): "教育心理学研究の技法(執筆章:観察によるアプローチ)"福村出版(大村彰道編). 170 (2000)
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[Publications] 遠藤利彦(章担当): "瞬間情報処理の心理学(執筆章:瞬時的センサーとしての情動の世界)"福村出版(海保博之編). 250 (2000)