1999 Fiscal Year Annual Research Report
「心の教育」に関する一考察 -ペスタロッチーから新教育運動へ-
Project/Area Number |
11710144
|
Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
伊藤 敏子 三重大学, 教育学部, 助教授 (20269129)
|
Keywords | 心の教育 / ペスタロッチー / 新教育運動 |
Research Abstract |
日本における新教育運動のなかで、ペスタロッチー教育学から強い感化を受けつつ心情陶冶に特色ある実践を行ったと目される沢柳政太郎および小原国芳の資料を読み解くことで、心情陶冶が時代・文化により与えられる制約・変容、さらに心情陶冶の時代・文化を超えた普遍性を浮き彫りにすることを目指す。沢柳は公教育改造の手がかりとして実験学校・成城小学校を設立し、一方の小原はその同じ学校に欧米の自由主義教育を手がかりとして模範学校の機能を期待する。この学校観の相違はまた心情陶冶観の相違として現れる。沢柳と小原はそれぞれの宗教的背景を携えながら修養による心情陶冶の可能性を模索し、沢柳は学校教育に宗教を持ち込むことを否定した上で教師が人間の心の中の問題を扱う宗教の真髄を内面化・人格化させた形で生徒たちに伝えることを求め、小原は成城時代には果たせなかったものの玉川では週に一回の礼拝を学校に導入することで教育の本質的なものと宗教と本質的なものを同一視する態度を示す。ただし、沢柳の修養論は「孝」を「内発的な道徳感情」として道徳の基礎に位置づけるという進歩的側面と、「個人と家族」および「男性と女性」に関する見解の保守的側面を同居させたものであり、小原の修養論は「愛」を基調としながら本間俊平に師事することで獲得した極めて日本主義的なキリスト教の構図を超え出るものとはなっていない。沢柳と小原はともに、このように構想された心情陶冶の鍵を握る教師を養成するに際してペスタロッチーに範をとる。すなわち、沢柳は高潔な教育者精神をペスタロッチーの生涯に見、小原は教師道のスローガンとして「ペスタロッチーにかえれ」を掲げる。ここには心情陶冶における時代・文化を超えた普遍性を暗示させるものがある。ドイツ語圏の新教育運動にみられる心情陶冶を検討していくなかで、今後、今日にも生かされうる心情陶冶の側面を模索したい。
|