1999 Fiscal Year Annual Research Report
戦後高等教育における教養教育と教養出版事業についての教育社会学的研究
Project/Area Number |
11710147
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
山口 健二 岡山大学, 教育学部, 講師 (90273424)
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Keywords | 読者の社会学 / 一般教育 / 文化の流通 |
Research Abstract |
読書に代表される大学生の教養消費行動を社会的・時代的要因に関連づけるための研究。主要な問題設定は、なぜ今、大学生が本を読まないかではなくて、なぜかつて、大学生が本を読めたかである。大学生が本を読むにいたるまでのプロセスが(大学教育や出版社の事業戦略を通じて)制度的に方向づけられている事実こそ、本を読む行為そのものにもまして重要な考察対象である、というのが研究を進めるにあたっての作業仮説であった。 1950〜60年代は"大学生の教養"を考えるうえで特別な時代であった。大学生は読書にことさらどん欲だった。1964年に朝日新聞社が実施した『第7回読書社会調査』によると、店頭での書籍の購入者の26%が短大・大学生。全購入者の78%が「29才以下」。出版という産業は1920年代以降、こうした高学歴若年層を中心的な顧客として成長を続けてきた。 この状況が1970年代の出版不況を契機に激変する。これ以降、出版は"学生商売"から脱皮し、都市サラリーマン階層をターゲットとした産業へと変貌する。大学生の教養ばなれは、他面では出版の大学生ばなれでもあるわけだ。同時に1970年代は、大学設置基準の改正により、一般教育にかかわる卒業要件の弾力化がはかられ、理工系を中心に教養課程の"縮小"が始まった時期でもある。 1950〜60年代における大学生の教養志向を強めた要因として、新制大学が、一般教育を専門教育と並ぶ柱に据えて発足したこと、多くの出版社が教養出版事業に意欲的に乗りだしたこと、戦後の知識人たちが"文化による国家再建"をキーワードに積極的に啓蒙活動を展開したことなどが検討された。 研究成果は、『IDE現代の高等教育』(民主教育協会発行)にその一部が掲載予定である。また目下、来年度の継続課題として『社会学評論』ヘの投稿を準備中である。
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