1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11710162
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Research Institution | Hakuho Women's College |
Principal Investigator |
工藤 真由美 白鳳女子短期大学, 国際人間学科, 助手 (80310788)
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Keywords | 死の教育 / 人間とことば / 臨床 |
Research Abstract |
今日青少年による凶悪な犯罪や自殺などが目立っており社会問題化している。そこには、死のリアリティー、いのちの重みが感じられない。本研究はこのような教育状況に鑑みて死の教育を哲学的に問うのみならず臨床的に問うことを目的とした。そのため、人間の死をめぐる哲学思想、宗教(学)、文学、教育学の成果を駆使しつつ、それらを今日の教育の中に目に見えるような形で生かしそのことを通して、子どもが死とは何かをめぐる思索を深めることにより、生命への慈しみ、畏敬の念を深める手立てを臨床的に構築する方法をとる。今年度は哲学思想、宗教(学)、文学の死をめぐる資料の収集と読み込み、検討をおこなった。これらから得られた人間の本来的姿と今日の子どもの特徴との顕著な相違は語るということを巡って現れてくる。本来人間は自己の人生と向かい合い、語ることを通して自己の人生をより意識的に組織化させる。人間は物語りつつ自己が何者であるのかを確認し、他者との交わりのうちに修正を加え語り直しつつ生きている。ところが、連日のように新聞をにぎわす青少年の自殺には、自己の人生を物語るという仕方で距離をもって眺め、そこに他者との軋轢や人生における不条理に傷つきながらもそれをも物語りその物語を修正しつつ自己の人生を生きる姿が欠如している。彼らにとって自己の人生の物語は一つしかなくその一つが否定されれば、自己の存在そのものが否定されたことになり、この世から自らを抹殺するしかないのである。そこには自己の人生の物語を語り直す柔軟さの欠如と、自己と自己の人生物語を語るための柔軟な言葉の欠如が指摘できるのである。ここで今日の問題を解く大きな鍵として言葉の重要性が指摘できる。人間は言葉とともに、言葉において感じ、考えている。人間的世界は言葉によって開示され、創造され、的確な言葉の表現は人間の世界を豊かなものとする。言葉は内的世界の形成に重要なかかわりをもつ。いのちの重みを感じ取らせる時、一方で人間にとっての言葉の重要性に気づかせることが肝要である。次年度はこれらを臨床に耐え得るものへと構築する。
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