1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11710212
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
冨井 眞 京都大学, 大学院・文学研究科, 助手 (00293845)
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Keywords | 使用痕 / 金属顕微鏡 / 剥片石器 / 摩滅 / 携行 / 稜 / 複製石器 / 実験 |
Research Abstract |
石器使用痕研究会に参加し、複製石器を対象にして顕鏡観察による石器使用痕の識別および分類についての知識を習得した。その後、複製石器を製作し、石器の前後運動などを実験的に行い、剥離面や稜に見られる摩耗痕跡を確認するべく肉眼・ルーペ・金属顕微鏡を用いた観察を行った。その結果、金属顕微鏡を用いると、短時間の連続運動によっても、対象物に直接はたらきかける部位(刃部およびその周辺)だけでなく行為者の手指が直接触れる部位(柄部ないし軸部)においても、剥片剥離によって形成された稜には、製作当初には存在しなかった摩滅光沢が確認された。また、一部の剥離面ではある種の鉱物に摩滅光沢が確認された。一方、対象物も手指もほとんど触れなかった部位は、製作当初の稜の鋭さがおよそ保たれ、摩滅光沢はほとんど形成されない。 別の実験として、石器が廃棄後にどれだけ摩滅するか類推するために、複製石器を空の紙箱内で前後等に数百回スライドさせる実験も行い、同様に観察した。金属顕微鏡を用いると、突出した部位の稜には、製作当初には認められなかった摩滅光沢が形成されていることが確認された。 この二種の実験によって、遺跡出土の剥片石器の摩擦光沢は使用や携行によって形成されたとは即断できない、という理解が導き出されるものの、一つの石器の中でどういった部位にどの程度の摩滅光沢が認められるかを詳細に検討することによって、その各部位の摩滅が使用によるものか、携行によるものか、遺物の発掘後の移動等によるものか、といった原因を推測することは理論的には可能になると思われる。しかし、遺跡の時期が限定されていることに加えて使用痕を観察しやすい黒曜石などの石器石材の同定結果が得られている資料を中心にして行った遺跡出土石器の観察では、部位別の摩滅の程度の違いを抽出するにはいたっていない。
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