1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11710234
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
田中 則雄 島根大学, 法文学部, 助教授 (00252891)
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Keywords | 後期読本 / 上方読本 / 近世小説 |
Research Abstract |
後期上方読本の作品について、資料収集の作業を行いつつ、主要作品に関して、下記のような問題を検討した。 好華堂野亭『絵本金石譚』に関して、先行する前期読本『両剣奇遇』(伊丹椿園作)、また素材源となった盗賊日本左衛門の話などと対比しながら、この作者が独自の設定を用いることにより、善悪の描写、人物の内面の葛藤の扱いに、独自の部分を見せている点を整理した。また同作者の『大伴金道忠孝図会』に関しては、典拠である軍記『大伴真鳥実記』との対比から、構成の緊密性の追求が行われ、また読者に共鳴を起こさせるべく描写に新たな留意が施されていることを知り得た。 また栗杖亭鬼卵『茶店墨江草紙』に関しては、お家騒動の枠を用いながらも、典拠の実録体小説『天下茶屋敵討真伝記』と比べて、人物が騒動の中に運命的に巻き込まれて行く、というのではなく、あくまでも個人レベルで人物を捉えようとする姿勢が見られること、また敵討が達成されるまでの苦難の部分を増幅させ、読者により大きな共鳴を与えようとしていることが知られた。同作者の『絵本更科草紙』では、予め特定の事件を提示しておき、それが時間を経て作用してくるように意識的に描いていること(構成性)、予言者的役割の者の配置、英雄であろうとも完全無欠の人間とは書かない、主家への忠義というような一種の大儀の中に人物を押し込めることなく、自発的意志や欲望などに立脚して行動するごとく描こうとする姿勢などの特質が見出された。 なお、後期上方読本作品のうち、手塚兎月『夢裡往事』(島根大学附属図書館堀文庫蔵本)のうち、前半の巻二までを翻刻し、作品内容についての論の用意を開始した。
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Research Products
(1 results)