1999 Fiscal Year Annual Research Report
対話形式の著作に見るガリレオの言語思想と言語表現について
Project/Area Number |
11710279
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
小林 満 京都産業大学, 外国語学部, 助教授 (50242996)
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Keywords | ガリレオ / ルッヅァンテ / 俗語 / 対話形式 |
Research Abstract |
ガリレオの主要2著作『プトレマイオスとコペルニクスの世界の二大体系についての対話』と『機械学と位置運動に関する二つの新科学をめぐる議論と数学的証明』で用いられた表現手段は俗語による対話形式であったが、俗語を彼が選択した一番の理由は民衆にも開かれた言語で自然哲学を記述するためであった。対話形式を選んだ理由は、あくまでも登場している対話者たちがそれぞれの仮説を述べたりそれに対して反論したり批判したりしあっている体裁をとっているために、論述形式のように内容が直接的に著者の見解とは見なされず、当時の公式の学説や聖書の記述に反することを述べても、異端審問からは逃れられるからだというのが、一般的な見方である。また劇作家ルッヅァンテを好んだガリレオが演劇(喜劇)的な作品構築をねらったのだとも考えられる。 しかしガリレオの対話形式がもっている最大の利点は、さまざまなタイプの言説をひとつの作品のなかに持ち込める、つまりジャンルの異なる多様な文章からひとつの作品を構成し得ることだと言える。たとえば、シンプリーチョによる典型的にアリストテレス学派的論述、サルヴィアーティによる図解しながらの数学的論証、さらには三者による具体的な実験作業に始まって、通常の科学的著作には見られない深い人間的洞察をともなった寓話や喩話にいたるまで、さまざまなジャンルの多様な文体が有機的につらなって議論を説得的に導き、いきいきとした三者のやりとりにより読者は最先端の学問領域の議論のなかに容易に取り込まれてしまうのである。 ガリレオはラテン語ではなく俗語を採用することで自然哲学を民衆に開かれたものとし、論述形式ではなく対話形式を選択することで民衆が楽しみながら最先端の知識を得ることを可能にしたのである。
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