2000 Fiscal Year Annual Research Report
日本中世法における「所務沙汰」をめぐる紛争処理および訴訟手続に関する実証的研究
Project/Area Number |
11720003
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
西村 安博 新潟大学, 法学部, 助教授 (90274414)
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Keywords | 中世法 / 和与 / 所務沙汰 / 裁許状 / 和与状 / 裁判 / 紛争処理 / 鎌倉幕府 |
Research Abstract |
本研究ではとりわけ、鎌倉幕府の裁判に見られる「所務沙汰」(民事訴訟的色彩の濃い裁判手続)を素材とすることによって、幕府の裁判手続の実態を明らかにすることを課題とした。これまでの法史研究においては、法廷に於ける訴訟手続の実態解明が主な関心事とされるに止まり、裁判外に於いても同時並行的に進行する紛争処理の手続過程についてはそこから切り離して考えられてきたという恨みが残されている。従って本研究は、幕府裁判所によって行われた裁判手続の全貌を明らかにするための手掛かりを得ることを目標に据えて、法廷内における裁判手続と裁判外における紛争処理手続とを一体的なものとして捉えていくための試みを行った。この試みは以下のようである。 (1)幕府裁判の「所務沙汰」における判決(裁許)パタンを見ると、「和与」に対してこれを認可する趣旨で裁許される場合が非常に多い。そこで、「和与」が裁判所によって認可される際には、どのような裁判手続が見られたのかについて、訴訟両当事者が「和与状」を作成・交換したのち、裁判所に対して提出する手続過程(和与の認可申請手続過程)について実証的に明らかにした。そして、裁判外の紛争処理において手続的に完結すると考えられていた「和与」に関して、裁判手続全体の中で改めて見直す必要のあることを指摘することができた。 (2)次には、裁判所が和与を認可することの裁判手続上の意義について検討した。紛争当事者間に成立した和与は裁判所がこれを認可することによって法的効力を獲得するとされるが、裁判所によって認可を得ていない和与(「私和与」)は何故に生じ得るのかについて、裁判手続の上での理解の可能性について探ることにより、これまでの「和与」理解については若干修正を要する部分の見られることを指摘した。 (3)以上、「所務沙汰」にみえる裁判手続の実態を明らかにするためには、本研究において着目した「和与」あるいは「私和与」の分析を行うことが非常に重要な作業となり得ることが明らかになった。法廷内および裁判外の手続を一体的に捉えていくための有効な分析視角が与えられたものと思われる。
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[Publications] 西村安博: "鎌倉幕府の裁判における「和与」について(二)完-和与の理解をめぐって-"新潟大学法学会編 法政理論. 第33巻第4号. 98-208 (2001)
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[Publications] 西村安博: "鎌倉幕府の裁判における「和与」について(一)-和与の理解をめぐって-"新潟大学法学会編 法政理論. 第33巻第2号. 65-126 (2000)
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[Publications] 西村安博: "鎌倉幕府の裁判における和与の認可申請手続について"新潟大学法学会編 法政理論. 第32巻第3・4号. 30-111 (2000)
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[Publications] 西村安博: "鎌倉幕府の和与認可裁許状における和与状引用に関する覚え書き(一)"新潟大学法学会編 法政理論. 第32巻第2号. 81-155 (1999)
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[Publications] 西村安博: "前近代日本における伝統法文化の一斑-「和興」と「内濟」をめぐって-"新潟大学法学会編 法政理論. 第32巻第2号二段組. 182-196 (1999)
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[Publications] 西村安博: "鎌倉幕府の裁判における和与状と和与認可裁許状について-対象史料の整理を中心に-"新潟大学法学会編 法政理論. 第32巻第1号. 1-92 (1999)
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[Publications] 西村安博: "書評 佐藤秀成著「和与状裏封と譲状外題安堵に関する一考察」"法制史学会編 法制史研究. 第48号二段組. 236-239 (1999)