1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11720006
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Research Institution | Aichi Gakusen University |
Principal Investigator |
村林 聖子 愛知学泉大学, コミュニティ政策学部, 講師 (10308801)
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Keywords | 寛容 / J.S.ミル / 法思想史 / 法哲学 / 19世紀 / イギリス |
Research Abstract |
本研究は、法思想史的考察と法哲学的考察とをフィードバックさせることにより、「寛容」を、従来の自由主義に対し新たな制度設計の可能性を与える概念としてとらえ、その社会的・制度的枠組みを検討するものである。平成11年度は、上記の二つの考察のうち、法思想史的考察つまりJ.S.ミル(John Stuart Mill,1806〜1873)の「寛容」概念の考察を重点的におこなった。ミルが生きた19世紀のイギリスは、工業化と都市化の時代であった。この時代状況において、労働者階級という新たな存在は、農村をその典型とするようないわば封建的な身分支配に基づく「一つの公共性を有する社会」の形成が困難となったことを象徴するものである、とミルは明確に認識している。この認識に基づき彼が自らの課題としたのは、すべての人が個人であることを前提としつつ、旧来とは異なる形で「社会」を維持形成するためには、法制度はいかなるあり方をすべきかということであった。すべての人が封建的支配から解放された自由で独立の個人として存在するとしても、公共性がなければ「社会」は単なる殺伐とした競争の場となる。ゆえに公共性は欠かすことができない。しかし個人の徳にもはや期待することはできない。又「社会」は多数者の専制という問題を抱えるがゆえに、その公共性は固定化した「一つの公共性」であってはならない。ミルの具体的な法制度に関する叙述は、「一つの公共性」を形成しつつ固定化しないという意味での「寛容」を成り立たせようとするものなのである。このことはミルのベンサム(Jeremy Bentham,1748〜1832)との対決とその克服によく示されている。以上の法思想史的考察は、近代市民社会から現代市民社会へという法哲学的考察の基礎として位置づけられるものであると報告者は考えている。
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