1999 Fiscal Year Annual Research Report
日本小売業のイノベーション・システム-競争と学習のダイナミズム-
Project/Area Number |
11730053
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
坂川 裕司 小樽商科大学, 商学部, 助教授 (40301965)
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Keywords | 小売業態 / 百貨店 / 革新 / 競争 / 学習 / 品揃え |
Research Abstract |
日本の百貨店業態の革新は、三越を代表格として始まった。その当時、三越、白木屋をはじめとする大手呉服小売業者(以下「大店」)は、高価格帯の呉服を品揃えすることで、競合との差別化を追及していた。そして大店は、呉服の生産段階を内部統合したり、あるいは系列化していった。また同時に大店の品揃えは、同じ色柄の呉服ばかりで、変化のないものであった。しかし新興の呉服小売業者が出現すると、大店は、多種多様な色柄を取り揃え、その時々の流行を作り出す品揃えを行うようになった。言い換えるならば、このとき大店は、百貨店に求められた「流行創出機能」を備えたのだ。その背景には、1)大店と新興呉服小売業者との競争関係の成立、2)新たな競争関係における大店の競争優位の崩壊、3)大店における新たな競争優位の確立と学習がある。新興の呉服小売業者は、生産段階の内部統合や系列化を敢えて行わないことで、全国各地で生産された呉服を仕入れることができた。さらに新興の呉服小売業者は、品質本意よりも、価格本意で品揃えを行うことができた。その結果、新興の呉服小売業者は、低い価格で多種多様な色柄の呉服を品揃えることで、その競争力を高めた。そして当時の消費者は、このような新興の呉服小売業者の品揃えを支持した。その一方で大店は、新興の呉服小売業者に顧客を奪われ、その経営基盤となる高級呉服市場の縮小によって、経営業績を悪化させていった。そこで三越をはじめとする大店は、新たな呉服デザインの開発、新たな商品仕入れ先の開拓を行うようになった。その結果、大店は、多種多様な色柄の呉服を品揃えするようになった。また同時に大店は、自らデザインを考案し、呉服の流行を作り出すようになった。 このように日本における百貨店の形成は、単なる欧米百貨店の模倣ではなく、その当時の競争構造と競争者の学習に規定されていたと推測できる。その事例の1つとして、上記のような事例が存在するといえる。
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