1999 Fiscal Year Annual Research Report
「金融商品の会計」と「包括利益」の政治経済学的分析
Project/Area Number |
11730084
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
澤邉 紀生 九州大学, 経済学部, 助教授 (80278481)
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Keywords | 会計制度 / 金融商品の会計 / 包括利益 / Exit,Voice,Loyalty / Tacit Knowing |
Research Abstract |
「金融商品の会計」および「包括利益」の制度的研究を行うにあたって,先行研究をサーベイした。各国における制度変化をフォローするとともに,制度的先行研究の検討を行った。その結果、津守や山地らによって代表される従来の会計制度研究の視角が、会計制度による社会的統制というマクロ決定論的傾向を持っている一方で,会計制度設定者に代表される論者は情報有用性というミクロ還元論的立場にあることが確認された。そこで,これらのサーベイを基礎として、会計制度論における社会的統制論とミクロ還元論の関係について基礎となる検討を行った。その際、ハーシュマン(A.O.Hirschman)のExit-Voiceアプローチを利用した。ハーシュマンのアプローチは,ミクロ主体の意思決定を制度的配置状況と関連づけて把握しようとした試みである。市場理論と整合的なExitと,政治理論と整合的なVoiceとの相互作用を,包括的に把握する枠組みとしてExit-Voiceアプローチは高く評価されている。このExit-Voiceアプローチを利用することで、社会的統制問題とミクロ意思決定問題を総合が可能かについて検討した。その結果、ハーシュマンのアプローチは、会計制度を対象とするにはいくつかの基本的問題点があることが明らかとなった。それら問題点は,教育・学習メカニズムをLoyaltyの選択と結びつけたポランニ(M.Polanyi)や忠誠を組織への自己同定化として把握したサイモン(H.A.Simon)らの議論を援用することで克服されることを示した。Exit,Voice,Loyaltyをミクロ主体の選択肢として認めることで、Exit-Voiceアプローチが会計制度分析に援用可能となるばかりでなく,ミクロ意思決定問題と制度の再生産問題が結びつく可能性を示すことができた。
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