2000 Fiscal Year Annual Research Report
力学モデルを用いた咀嚼系の機能復原に基づく鰭脚類の食性の多様化過程の研究
Project/Area Number |
11740286
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Research Institution | National Museum of Nature and Science,Tokyo |
Principal Investigator |
甲能 直樹 国立科学博物館, 地学研究部, 研究官 (20250136)
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Keywords | 咀嚼 / 機能形態 / 食性 / 行動 / 食肉目 / 鰭脚類 |
Research Abstract |
本年度は,平成11年度で推定した各咀嚼筋の付着位置と作用方向を相対化するため,頭蓋及び下顎の各咀嚼筋の起始点・停止点をランドマークとする2次元座標軸上のランドマークを設定し,それぞれの咀嚼筋の運動方向から推定される咬合様式と咀嚼筋相互の拮抗・協調関係を,それぞれの系統群ごとに導き出して比較研究を行った.その結果,平成11年度に推定を行なった鰭脚類の姉妹群であるポタモテリウム属と鰭脚類の基幹群であるエナリアルクトス属に比較して,セイウチ科では基幹群であるネオテリウムにおいて,閉口を司る咬筋が相対的に小さくなる傾向が認められる一方で側頭筋は拡大し,また開口を司る顎2腹筋の縮小の傾向が認められた.アザラシ上科ではデスマトフォカ科のアロデスムスにおいて,セイウチ科とは反対に咬筋が著しく拡大する傾向が認められる一方で側頭筋は縮小し,顎2腹筋の付着部位は明らかに拡大していた.各筋肉に推定された運動方向から,セイウチ科では各咀嚼筋の調和的拮抗によって,特定の開口角を維持する方向に進化したことが考えられた.一方,アザラシ上科では極めて素早い顎の開閉運動を行なう方向へ進化したことが考えられた.これを鰭脚類の系統発生のパターンと対応づけて解析すると,鰭脚類が現在の多様な種群へと至る過程で,セイウチ科の仲間は,咀嚼を放棄して口腔内の容積を増大させて相対的に固定された口腔空間を利用して餌となる動物を吸引する食性へと進化する過程であったことが推定された.一方,アザラシ上科は,同様に咀嚼を行なわない一方で極めて俊敏な顎の開閉運動によって俊敏な動きをする獲物であっても確実に捉える方向へと進化したことが推走された.なお,本研究の成果の一部は2000年10月にメキシコ大学で開催された第60回脊椎動物古生物学会議にて公表した.
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