1999 Fiscal Year Annual Research Report
危急種ナリヤラン(ラン科)を保護・増殖するための種子繁殖に関する研究
Project/Area Number |
11740432
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
杉浦 直人 熊本大学, 理学部, 講師 (50304986)
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Keywords | ナリヤラン / 保全生態 / 送粉 |
Research Abstract |
1.生育状況の調査 西表在住の104人にヒアリング調査をして、現在および過去の生育状況の把握を試みた。その結果、かつては西表島南端の豊原から西部の白浜(および内離島)までの全域にわたってたくさんの自生地が存在し、特に仲間崎や宇那崎付近、上原および浦内付近の海岸線と山地との間の平野部には大生育地があったことが判明した。しかし現在は、農地改良事業によってその大部分が完全に消滅している。現在でもまとまった数(500<)の開花株の生育が認められる自生地は、上原と仲間崎付近の2ヶ所を残すのみである。 ナリヤランは陽光要求性の強いパイオニア種で、植生遷移の進行に伴いコシダなどの高丈植物が密生すると、開花株の衰退と地表部での実生更新が阻害され消失してしまうことが判明した。したがって、残存する生育地が土地開発を免れたとしても、草刈り(あるいは火入れ)などによって植生遷移の進行を人為的に阻止しない限り、現状を維持するのも困難な危機的状況にある(残存する生育地の大多数には既に高丈植物が侵入している)。自然環境下における本種の保全には、明らかに生育地管理が必須である。 2.交配システム 人為的な受粉処理を開花後日数の違う花に施すことで以下の諸点を解明した。(1)本種は自動的な同花受粉機構を欠くため、種子生産のためには送粉昆虫の介在が不可欠である。しかし、(2)同花受粉の処理をすれば高率(90.9%=44/50)で実を結ぶので、自家和合性である。(3)柱頭は開花直後から花粉の受入れが可能で、少なくとも開花4日目までは高い結果率(83-94%)を保つ。(4)花粉塊は最低でも4日間は稔生を保つ(次年度はさらに古い花粉塊を用いて実験を行い、どれくらい送粉昆虫の体に着いたままでも受精が可能かを明らかにする)。 3.送粉昆虫の予備調査 送粉昆虫としてタカオルリモンハナバチ、ミナミアオスジハナバチ、オオフタビドロバチを同定した。しかし、ヒアリング調査中に得た情報によれぱ、ナリヤランの開花期は6月から12月までの長期に及ぶため、時期ごとに異なる種類の昆虫が花粉を媒介していると推測される。次年度は今回明らかにできなかた開花の初期と終期における送粉昆虫種の解明とその定量的評価を試みたい。
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