Helicobacter pyloriの胃粘膜表層粘液ゲル層への付着の解析

1999 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 11770145
• Research Institution: Jichi Medical University
• Principal Investigator: 林 俊治 自治医科大学, 医学部, 講師 (40260765)
• Keywords: Helicobacter pylori / 付着 / 胃粘膜 / 粘液ゲル層 / ムチン

Research Abstract

Helicobacter pylori(HP)ヒト胃粘膜に感染し、慢性胃炎・消化性潰瘍・胃癌・胃MALTリンパ腫の原因となる。HPの胃粘膜への付着はHPの感染にとって必須のステップである。従って、HPの付着現象の解析は上記の疾患をコントロールするうえで重要である。従来、HPの付着現象の研究は、胃粘膜上皮細胞に対する付着の解析を中心に進められてきた。しかし、実際にはヒトの胃粘膜において、上皮細胞に付着している菌よりも胃粘膜粘液ゲル層に存在する菌の方がはるかに多い。そこで、我々はHPの粘液ゲル層への付着の解析を行った。
1.粘液ゲル層を保存した状態で固定した胃粘膜組織の切片にHPを反応させ、HPの粘液ゲル層に対する付着を観察した。その結果、HPが上皮細胞のみならず、粘液ゲル層にも付着することが判明した。また、様々な病態の患者より分離されたHPを用いて同様の実験を行ったが、いずれの株を用いても類似の結果しか得られなかった。従って、粘液ゲル層に対する付着と病態との間に特定の関係を認めることはできなかった。
2.我々は胃粘液よりムチンを分離して、HPの付着におけるムチンの役割を解析した。胃粘膜組織切片にHPを反応させる前に、HPにムチンを反応させると、HPの粘液ゲル層に対する付着は阻害された。以上の結果はHPが粘液ゲル層に付着する際に、ムチンがレセプター分子として働いていることを示唆している。
3.さらに、我々は胃粘液ムチンに対するHPの付着を定量的に解析する方法の開発を試みているが、未だその確立には成功していない。
以上の結果はHP感染の成立において、粘液ゲル層に対する付着が重要な役割を果たすことを示唆している。しかし、それがHP関連疾患の病態形成において、どのような意義を持つのかについては、さらに検討が必要である。

Research Products

• [Publications] 平井義一: "H.pyloriの微生物学的特性"細胞. 31・4. 125-129 (1999)
• [Publications] 平井義一: "Helicobacter感染の新しい展開"消化器の臨床. 2・3. 255-261 (1999)
• [Publications] Kenji Yokota: "Gastric ulcer in SCID mice induced by Helicobacter pylori infection after transplantinglymphocytes from patients with gastric lymphoma"Gastroenterology. 117・4. 893-899 (1999)
• [Publications] Shin-ichi Yokota: "Two distinct antigenic types of the polysaccharide chains Helicobacter pylori lipopolysaccharides characterized by reactivity with sera from humans with natural infection"Infection and Immunity. 68・1. 151-159 (2000)
• [Publications] Shunji Hayashi: "Combined effect of rebamipide and ecabet sodium on Helicobacter pylori adhesion to gastric epithelial cells"Microbiology and Immunology. (発表予定). (2000)
• [Publications] Shunji Hayashi: "Treatment of Helicobacter pylori infection"Research Advances in Antimicrobial Agents & Chemotherapy. (発表予定). (2000)
• [Publications] 平井義一: "ヘリコバクター・ピロリ感染症"エマージングディジーズ(単行書) 近代出版. 53-58 (1999)
• [Publications] 天野憲一: "ヘリコバクター・ピロリLPSとの構造と機能"エンドトキシン研究2(単行書) 菜根出版. 105-112 (1999)
• [Publications] 松山尚弘: "病原因子としてのヘリコバクター・ピロリLPS"エンドトキシン研究2(単行書) 菜根出版. 113-120 (1999)
• [Publications] 小熊恵二: "細菌学的特徴"Helicobacter pyloriと胃粘膜病変(単行書) 先端医学社. 25-42 (1999)
• [Publications] 藤井 暢弘: "ポリメラーゼ連鎖反応法"Helicobacter pyloriと胃粘膜病変(単行書) 先端医学社. 174-178 (1999)
• [Publications] Shunji Hayashi: "Studying bacterial adhesion to gastric epithelium"Handbook of Bacterial Adhesion(単行書) Humana Press. 497-513 (2000)