Research Abstract |
目的:前向きコホート調査によって,高齢者における歯牙喪失と全身状態も含めたリスク要因との関連性を明らかにすることが目的である。 対象および方法:平成10年度に実施済みのベースライン調査の対象者である,70歳高齢者599名を1年後に追跡調査し,口腔内状況,全身状態,保健行動などベースライン時と同じ内容で,歯牙喪失リスクと考えられる情報を収集した。分析対象者は,追跡できた488名(男254名,女234名)で,分析では,調査期間中に歯牙を喪失した者「喪失(+)」となかった者「喪失(-)」別に,ベースラン時の各種リスク情報を比較し,要因分析をおこなった。なお,ベースライン時に残根,根面capであった歯牙の喪失は含めなかった。また,喪失歯の修復状況等,歯牙単位の分析もあわせて行った。 結果および考察:喪失(+)の者は,全体で74名(15.2%)であった。要因分析では,喪失(+)の者は,未処置歯数が多く(p<0.05),咬合力(p<0.01)が低かった(以上t-test)。また,SM,LB菌数の多い者(p<0.05),咀嚼能力の低い者(p<0.05),歯周状態の悪い者(p<0.01),骨密度の低い者(男性のみ,p<0.05),義歯装着者(p<0.05),一人暮らしの者に(p<0.05),それぞれ喪失(+)の者の割合が有意に高かった(以上x2-test)。歯牙単位の分析では,全部冠の喪失割合が高く(57.4%),また,義歯鉤歯やアタッチメントロスの大きい歯牙で喪失割合が高い傾向にあった。今回の結果から,う蝕リスクや歯周状態,歯牙の修復状態などの基本的なリスク要因との関連のほか,咀嚼能力,義歯装着状況や,家族数などの生活環境,骨密度など全身状態との関連も示唆された。今後は,さらに1年後の追跡調査を行い,高齢者における歯牙喪失リスクを特定していく予定である。
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