Research Abstract |
cis-及びtrans-2-phenyl-1-[(trimethylsilyl) methyl]tetrahydrothiophenium塩の混合物にフッ化セシウムを24時間反応させ,脱シリル化反応によってテトラヒドロチオフェニウムメチリドを発生させその転位生成物を調べた.その結果,cis,transの混合比に関わらず,1,4,5,10a-tetrahydro-3H-2-benzothiocine([2,3]シグマトピー転位体,含硫黄8員環化合物)と4-methylsulfanyl-1-phenyl-1-butene(Hofmann脱離体)が8:2の生成比で得られ,目的とした含硫黄8員環化合物が効率よく得られてきた.しかし,この転位反応に疑問がもたれた.即ち,5員環イリドにおいてtrans体はイリド炭素と2位の置換基であるフェニル基との距離が非常に離れているため,[2,3]シグマトロピー転位は直接起こらず,Hofmann脱離が進行するものと思われ,[2,3]シグマトロピー転位体はcis体のみから得られると考えられていた.ところが,実際はtrans体からも[2,3]シグマトロピー転位体が得られた.この事からtrans体はいったんcis体に異性化した後で[2,3]シグマトロピー転位すると考えた.この異性化はスルフラン中間体を経由し硫黄原子上で起こるか,2位のプロトンの[1,3]転位によりベンジリド中間体を経由し,フェニル基が反転して起こるかのいずれかと考えた.そこで,プロトンの[1,3]転位が起こらないようなイリドを考えた.即ち,cis-及びtrans-2-methyl-2-phenyl-1-[(trimethylsilyl)methyl]tetrahydrothiophenium塩をフッ化セシウムと反応させ,対応するイリドを発生させたところ,cis体からは[2,3]シグマトロピー転位体を,trans体からはHofmann脱離体を選択的に得た.この実験よりtrans体のイリドからcis体のイリドへの異性化は,2位のプロトンの[1,3]転位によりベンジリドを経由し,フェニル基が反転し起こっているものと思われる.さらにこの事を確かめるため,イリド炭素上の水素を重水素でラベルし,転位反応を試みた.その結果,重水素が移動した[2,3]シグマトロピー転位体及びHofmann脱離体が得られてきた.以上の結果より,スルホニウムイリドにおいてはα-プロトンの[1,3]転位が非常に速く起こっていることが明らかになった.
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