1999 Fiscal Year Annual Research Report
歴史地理学的手法による環境研究の再検討-内水面の歴史的利用形態の多様性をめぐって
Project/Area Number |
11780065
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
服部 静代 (佐野 静代) 滋賀大学, 教育学部, 講師 (80273829)
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Keywords | 環境研究 / 自然 / 内水面 / 琵琶湖 / 関係性 |
Research Abstract |
本研究では、歴史地理学的手法による環境研究の意義と可能性を検証し、復原にとどまらず今後の人間と自然のあり方に指針を与えうるような環境研究を行うことを目的としている。本年度は、まず従来の歴史地理学分野における環境を主題とする研究について分析し、古環境復原、災害史、環境認識などその系譜を整理し、各々のアプローチの問題点を明らかにした。これまでの歴史地理学においては、「自然と人間との関わり方そのものを問い、それを動態としてとらえる」視点が意外に少ないことがあげられる。人間の環境への関わり方と、その変化の要因を本質的に議論することが、これからの歴史地理学的な環境研究の必須視角となる。これをうけて、本研究では、人間と水環境との相互関係、特に内水面をめぐる営みを研究対象として、その構造と変遷について分析した。具体的には琵琶湖北部の河川と河口部の潟湖周辺を取り上げて聞き取り調査を行い、住民による多様な利用と、この利用の多様性が水環境の保全システムを作り上げていた実態を解明した。人間と自然の「関係性の総体」として成り立っていた内水面の環境システムについて、関係性の減少に伴うシステム崩壊の過程とその要因とを分析した。またこの地域とは対照的に、住民による湧水・潟湖などの伝統的利用形態が、現在なお残存している他地域の事例も調査し、琵琶湖内水面での「関係の多様性の減少」との比較研究を行った。本年度に行った分析は、主に聞き取り調査に基づいて昭和期を対象としたものであったが、次年度には同一地域において、考古学的にみた漁撈技術の発達段階、有力社寺による宗教的イデオロギーと環境利用、地方文書・藩政文書にみる環境利用と規制の問題など、中世・近世における人間と自然との関係についても分析を行い、内水面における人間と自然との関わり方を動態としてとらえる歴史地理学的な環境研究の再構築を試みる予定である。
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