Research Abstract |
本研究では,日本人が英語発音を学習する際に陥り易い,日本人特有かつ不可避な発音上の癖に着目し,学習者が持っている癖の度合いの推定と共に,学習者にとって理解し易い癖の視覚化方式について実験的に検討した。具体的には,強勢/弱勢の生成の様子に見られる癖に着眼した。これは,日本語が高さアクセントであるがために,日本人英語学習者が,主に,声の「高さ」の変化に基づいて強勢/弱勢を生成する傾向があるからである。英語の強勢/弱勢は本来,声の「高さ」のみならず,「強さ」「長さ」更には「母音の音質」までを制御対象とする必要がある。本研究では学習者が強勢/弱勢を生成する際に,優先的に制御対象としている音響的特徴を推定し,その推定結果を「癖」と定義した。ここで,優先的に制御対象としている音響的特徴量の推定には,HMM(隠れマルコフモデル)を用いて構築された強勢音節検出器を使用した。この検出器では,入力単語音声の「高さ」「強さ」「長さ」「母音の音質」に対応する音響的特徴量を抽出し,各々の特徴量に基づく強勢/弱勢らしさのサブスコアを算出する。そして,これら4つのサブスコアを統合することで,最終的な強勢/弱勢らしさを計算している。ここで,サブスコアの統合の際に,各スコアに対して重みを乗じ,その重みを一定の条件の下,変動させることを考える。この重みパターン空間の中で,検出率が最大となる重みパターンは「発音上の癖」を反映していると考えられる。癖の視覚化に関しては,重みパターン空間の各点に対する検出率を色分け表示することで実現した。こうすることで,検出率が最低となる重み位置(これも一種の癖と捉えることができる)や,検出率が増加/減少する方向性なども学習者に提示でき,また,各特徴量の使用具合のバランスの様子も提示することができる(これは,各特徴量を個別に提示する方法論では伝達不可能な情報である)。更に,本視覚化方式は,具体的な音響的観測量(音声波形やスペクトルなど)は表示せずに,これらの観測量を抽象化して表現していることとなり,学習者にとって非常に理解容易な表現形態となっている。評価実験の結果,本視覚化方式は,日本人英語と母語話者による英語の差異を表現できるのみならず(日本人の場合,声の高さに対する重みを高くすると検出率は高くなる),日本人間の差異(即ち,英語発音能力の差異)までもが,表現可能であることを示すことができ,本方式の高い利用価値を示すことができた。今後は,1単語発生のみに基づいた癖パターンの表示技術の開発と,実際に教材として使用した場合の効果などについて検討する予定である。
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