Research Abstract |
本年度は、IV型コラーゲンゲル上にてヒト大動脈平滑筋細胞を培養した時の細胞の挙動について検討した。先行研究において,IV型ゲル上で、ヒト大動脈平滑筋細胞は二極性の細長い形態をとり,さらに,細胞間で接合し,培養細胞全てが切れ目のない多細胞メッシュワークを形成することを観察した。この時,細胞は,増殖活性をもたず,平滑筋細胞の収縮型の分化形質を生化学的分析などから示した。一方,この現象は,同じ「ゲル」でも,EHS腫瘍が産生する基底膜構成成分のゲル化物(マトリジェル),I型コラーゲンゲルでは観察されなかった。そして,IV型コラーゲンをプラスチック培養皿上にコートした状態で培養した場合には,観察されなかった。IV型コラーゲンゲルの上の場合でも,プラスチック皿にIV型をコートした場合でも,細胞にとっては,表面で接している物質は,どちらも同じIV型コラーゲンである。それでは,このゲル上とコートの場合の細胞の挙動の違いは,どのような条件に由来するのであろうか?このような疑問を解消するために,次のような仮説を立てた。細胞は,接している分子の会合体構造に加えて,その物性についてもシグナルとして,分化形質を保つために必要な要素として認識している。そこで,この仮説を検討するために,I型コラーゲンゲル上にIV型コラーゲンを置いた場合を比較した。I型ゲルの上に,IV型コラーゲンをコートして平滑筋細胞を培養すると,培養開始後,数日間は,IV型ゲルと同様の挙動を示す傾向があった。しかし,培養日数が伸びると,I型ゲル上と同様に,増殖して合成型の分化形質に変化した。もう少し確認する必要はあるが,おそらく培養中に,徐々にIV型が分解されてしまうのではないかと考えられる。
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