Research Abstract |
雌馬の顆粒膜細胞腫は,罹患した一側卵巣中に大型の血様卵胞が多数存在するが,反対側の卵巣は萎縮硬結し,繁殖機能が失われた状態が持続する疾病である.平成11年度の研究において,罹患卵巣摘出前の末梢血液中のE2,T,インヒビン関連物質の濃度は高い値で推移し,罹患卵巣の摘出によって,手術直後からインヒビン関連物質の濃度は基底値以下まで急激に低下することを認めた.また,腫瘍卵巣内の卵胞様構造物は,対照の正常卵胞に比べて異常に顆粒層細胞が肥厚していること,免疫組織学的にはインヒビンα鎖は検出されるが,βA鎖,βB鎖は検出されない事を認めた.これらを踏まえ,平成12年度においては,顆粒膜細胞腫罹患馬の卵巣動態や内分泌学的背景を,末梢血中の性関連ホルモン濃度の経口的測定と罹患卵巣中に存在する卵胞様構造物中のインヒビンの性状分析から調べた.その結果,非繁殖季節から繁殖季節の罹患馬の超音波画像診断装置を用いた卵巣動態において,罹患卵巣では直径2.5〜6.5cmの5ないし7個の卵胞が常に存在するが,反対側の萎縮卵巣では直径1cm程度の小卵胞が2ないし3個存在するのみであることを認めた.また,非繁殖季節から繁殖季節における,血中性関連ホルモン(LH,FSH,E2,P,T,インヒビン関連物質)濃度を調べたところ,2頭中1頭においてはE2とT値がともに上昇する時期があることが認められた.しかし他の1頭では常に低い値で推移した.他のホルモン濃度はいずれの例においても低い値で推移した.顆粒膜細胞腫に罹患した馬から外科的に摘出された罹患卵巣中に多数存在する卵胞様構造物中の内溶液を採取し,その中のPro-αC,インヒビンA、およびインヒビンB濃度を測定した結果,性状卵胞中のそれらに比べて,インヒビンA濃度は有意に低い値を示した.また,インヒビンB濃度は性状卵胞液と比べて低い値を示した.しかし,Pro-αC濃度は性状卵胞液の1/5から1/2程度で,比較的高い値を示した.これらの結果から,顆粒膜細胞腫に罹患した馬においては,罹患卵巣には正常とは異なる卵胞の発育が認められること,反対側の卵巣では卵胞の発育が抑制されていること,および本症に罹患した馬ではさまざまな異常な内分泌動態を示すことが認められた.
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