2000 Fiscal Year Annual Research Report
責任の様態と集団の境界構造との関係に関する知識社会学的研究
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11871032
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Research Institution | Teikyo University of Science & Technology |
Principal Investigator |
井腰 圭介 帝京科学大学, 理工学部, 助教授 (50222914)
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Keywords | 責任の論理 / 認識根拠 / 暗黙知と形式知 / 境界の変換 / 否定作用 / 団体構成 / 同族団 / 生活体験 |
Research Abstract |
本年度の課題は、知識の性質という観点から先行研究を検討し、責任の様態と集団構成の関連性を解明することであった。 日本人の「責任の論理」の先駆的研究には、丸山真男による所謂「東京裁判」の法廷陳述の分析と作田啓一による『世紀の遺書』の分析がある。分析の結果、丸山は「自己の責任を回避する態度」を広範に見出し、作田は逆に「他者の責任を引き受ける態度」が濃厚であると指摘した。A級とBC級という分析対象の違いがあるとは言え、両者の結論は対照的である。だが、「個人責任の意識の欠如」と共同謀議とみなされるような「暗黙の了解の成立」という二つの事実について両者の認識は一致している。つまり結論の対照性は強調点の差に過ぎず、むしろ「行為の前提を暗黙に共有すること」が、日本人の「責任の論理」の認識根拠である点を解明した点に先駆的研究の意義がある。責任の認識根拠が「行為の前提の暗黙の共有」にあるため、責任はこの前提に帰属され、個人責任の観点から見ると「全員が等しく責任を負う」ような外観が呈される論理が示されたからである。類似した責任の様態は所謂「ゲルマン的団体構成法」にも見られるが、「前提の黙示性」と「代表者と引責者の分離」という点で異なり、日本の集団構成では境界構造に変換可能な柔軟性が生まれることになる。 この柔軟性は、日本の典型的な団体構成の論理を解明した中野卓『商家同族団研究』の事例の中で詳述されている。事例に見られる境界構造の変換作用は、端的に「知っている者なら追及できないはずだし、知らない者には追及する資格がない。」という二重の否定作用として定式化できる。そして、この作用は「生活体験の共有」を条件にしてのみ有効に機能するとされている。従って、集団の境界構造の変換作用が生活体験の分化によって機能しなくなると、「暗黙の前提の共有」という責任の認識根拠が失われ、日本人の責任の様態は変容する。
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Research Products
(2 results)