1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11871058
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
出原 隆俊 大阪大学, 文学研究科, 教授 (10145930)
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Keywords | なにはがた / 大阪文芸 / 葦分船 |
Research Abstract |
明治二十年代半ばに、大阪を拠点とした文芸雑誌が相次いで創刊された。浪華文学会の機関誌「なにはがた」、〓心社発行の「葦分船」、大阪文芸会の「大阪文芸」である。これらは、互いの存在を意識したり、地方雑誌でありながらも鴎外に論争を挑み、鴎外も視野に入れていたことなど、中央文壇を見てるだけでは見えてこない側面をもっており、改めて検討を要する対象である。たとえば、「大阪文芸」の第二号には、「大阪の文学者に望む」という評論文が掲載されている。そこでは、「東京の文学―重に小説―」と「大坂の小説」の傾向の違いを述べている。「人の性情を写さんとするに傾ける」ものと「趣工を専一とし」たものという対比である。この指摘の当否は別として、文壇における潮流の問題が地域性の問題として出ているわけである。また、取り分けて「なにはがた」では作品の舞台を大阪に置いたものが多い。このことが東京を舞台にするものとどのような違いを生むのかということもひとつの課題として浮上する。また、登場人物の会話として大阪言葉が使用されるのみではなく、地の文においても使われる例がある。これは語りの問題を考える上で、何らかの示唆を与えるものである。中央志向が強い傾向が見られる「葦分船」の場合も含め具体的な作品の検討が要請されるだろう。 さらにこうした問題は、自由民権期に大阪において出版された政治小説の位相の問題などとも関連すると考えられる。地域性を持った文学作品を近代文学史再検討のための手がかりのひとつとする展望が見えてきたと考える。
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