1999 Fiscal Year Annual Research Report
言語機構の最適設計―その生物学的基盤と生命科学的意義に関する基礎的研究
Project/Area Number |
11871064
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤田 耕司 京都大学, 総合人間学部, 助教授 (00173427)
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Keywords | 生成文法 / 最適設計 / 余剰性 / 創発適特性 / UGの起源と進化 / ネオ・ダーウィニズム / 統一問題 |
Research Abstract |
今年度は三年計画の本研究の初年度であり、主に純概念的思索の領域について以下の知見を得た。 (1)生成文法は人間言語という複雑な事象の根底にあってこれを支援する物理的メカニズムを明らかにするものである点で、生物学の中で分子生物学が果たすのと同じ役割を担っており、言語学と生物学を繋ぐインタフェイスとなる可能性が大きい。(2)近年の「強いミニマリスト・テーゼ」は生物学的余剰性自体を否定しており、「チョムスキーのパラドクス」を認知的余剰性との混同と片づけることはできず、徹底した反機能主義問題設定の契機と理解しなければならない。(3)合目的性の破棄など、生成文法は近代科学の理念をそのまま継承する接近方法であり、ネオ・ダーウィニズムとも矛盾しない。生成文法の反ネオ・ダーウィニズム的側面はUGの起源と進化のいずれに焦点を当てるかによって生じる表面的矛盾であり、むしろ自然選択説の不備を補うものとして生成文法を位置づけることが可能である。(4)遺伝記号、DNA自己複製、免疫系の抗原認識と抗体形成、タンパク質のフォールディング、など、いずれもが生命物質系に内在する自己認識能、自己組織化能の発露であり、生成文法における素性の一致・照合という言語計算の基本メカニズムの生物学的仮説と整合する。(5)主要部媒介変数などの言語の非対称性は、自然を構成する基本物質のキラリティをその根拠としており、言語の設計にはすでに示唆されている不確定性原理や熱力学第二法則と共にパリティの破れが関与していると想像できる。これは、従来人間言語の特性や原理とされてきたものを、その領域固有性から解放して自然一般の普遍法則に還元する可能性を示唆しており、諸科学の統一という偉大な目標への重要な貢献となるはずである。なお、以上は第17回日本英語学会(平成11年11月)にて他の研究者の協力を得て企画・開催したワークショップ「生成文法と進化生物学」で公開済みである。
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