2000 Fiscal Year Annual Research Report
中性子反射率測定による高分子薄膜および表面のガラス転移の研究
Project/Area Number |
11875213
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金谷 利治 京都大学, 化学研究所, 助教授 (20152788)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田崎 誠司 京都大学, 原子炉実験所, 助手 (40197348)
海老沢 徹 京都大学, 原子炉実験所, 助教授 (30027453)
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Keywords | 高分子薄膜 / ガラス転移 / 中性子反射率測定 / 表面ガラス転移 |
Research Abstract |
最近、ガラス転移のメカニズムとして次のような考えが提出されている。すなわち、高温では各分子は自由に独立に運動ができるが、温度が下がり過冷却状態に入ると、相互作用が強くなり分子は互いに協同的に動くようになる。この協同的に運動する領域は協同運動領域(CRR)と呼ばれるが、温度がさらに下がりガラス転移温度Tgに近づくとCRRは益々大きくなり、ついには系全体に広がり、もはや分子は動けなくなる。このような考えを確かめる1つの実験的方法は細孔や薄膜などの拘束系で実験である。拘束系では、協同運動領域が系のサイズより大きくなれないため、結果としてTgが下がると予想される。しかし、今までになされた実験では、この予想に一致するものとしないものがある。この理由は、拘束系では界面や表面の影響が無視できないためである。 本研究では、この問題を解決するために薄膜におけるガラス転移を膜厚自身のガラス転移と膜表面のガラス転移に分離することを提案した。すなわち、シリコン基盤上にスピンコートしたポリスチレン(PS)薄膜からの中性子反射率測定より表面粗さと膜厚を温度の関数として決定し、表面および膜自身のTgを個別に決定する。それを種々の膜厚について行い、表面Tgと膜Tgに対する膜厚の影響を明らかにし、協同運動領域の役割を解明するのである。 実験の結果、シリコン基盤にスピンコートた重水素化PS(膜厚400,200,100,50Å)について中性子反射率測定を行い、次のような結果が明らかとなった。 (i)薄膜自身のTgは、膜厚400,200Åではバルク状態と同じ105℃であったのに対して、表面Tgは約75℃であり、表面ではガラス転移温度Tgがかなり低くなる。 (ii)膜厚が100Åよりも薄くなると、膜自身のTgも低下する。 (iii)さらに、50Åの超薄膜では、負の膨張係数、すなわち温度が上がると見掛け上膜厚が薄くなる現象が観察される。 (iv)(i)の結果は高分子薄膜の表面効果であり、(ii),(iii)の結果は、高分子膜と基盤との相互作用として理解されるが、現在モデル計算を含めさらに詳細な解析を進めている。それにより、系のサイズがガラス転移に及ぼす効果が明らかになると考えられる。
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