2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11CE2002
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
吉野 直行 慶応義塾大学, 経済学部, 教授 (50128584)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 福成 慶応義塾大学, 経済学部, 教授 (90265918)
竹森 俊平 慶応義塾大学, 経済学部, 教授 (30179676)
池尾 和人 慶応義塾大学, 経済学部, 教授 (00135930)
和気 洋子 慶応義塾大学, 商学部, 教授 (50119038)
嘉治 佐保子 慶応義塾大学, 経済学部, 教授 (30169437)
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Keywords | アジア金融危機 / マクロ経済分析 / 為替政策 / バスケット通貨制 / 社会資本 / 銀行行動 / 金融資産選択 / 人口構成 |
Research Abstract |
研究実績の概要(当該年度のまとめ) 今年度は、最適為替制度のあり方、銀行システムの比較研究、社会資本の生産性効果、アジアマクロ計量モデル分析、アジアの債券市場などに関する研究を中心に行った。 (1)最適為替制度と地域通貨制度 アジア通貨危機以降、ドルとの連動が強すぎるとよくないという結論であったが、最近では、再び、多くの国々で、ドルレートとの連動が強まっている。また、マレーシアや香港では、固定相場制が敷かれ、マレーシアでは資本移動規制が実施されている。各国とも、最適な通貨制度はどのようにあるべきかに関心を持っており、フイリッピン・マレーシア・タイ・中国の中央銀行・大蔵省などで、研究成果の報告を行った。バスケット通貨制は、そのウエイトが適切に設定されれば、メリットがあることが導出された。また、為替変動が貿易収支に大きな影響を与える場合には、ある条件のもとでは、資本移動規制もその役割があることも求められた。 (2)銀行システムの比較 韓国・日本は、ともに、経済制度が類似しており、産業金融という強固な金融システムが構築された、経済成長を達成した点が特徴である。しかし、強固な制度設計のあまり、グローバル化の中で、その制度変更が迫られているにも関わらず、金融システムの柔軟な変更が行えず、不良債権問題・銀行部門の脆弱性が続いている。環境に対応した柔軟な金融制度に変更できるような制度設計の必要性が明らかとなった。 (3)社会資本の生産性の比較 アジアの多くの国々では、インフラ整備が必要であり、地方や貧困対策のためにも、社会資本の整備が急務となっている。方や、日本では、公共投資の中身・配分の仕方の問題点が指摘され、長期の景気低迷の一つの要因とも言われている。タイ・台湾・日本のデータをもとに、社会資本の生産力効果を実証的に分析している。トランス・ロッグ型生産関数を用いて、計量分析を行ったもアジア諸国では、インフラ整備の遅れから、現在のところは、生産力効果は高いが、今後は、(i)社会資本の生産力効果を分野別・地域別に計測することが不可欠である。(ii)インフラの多くは、その需要予測が現実よりも高めに設定され、あたかも将来的には採算が合うように説明されているが、利用者数の予想については、その説明責任を明らかにすることが不可欠である。 インフラ整備と貧困との関係については、インフラ整備が貧困層を減少させ、所得分配の公平性を高めるという仮説もあるが、タイのデータに関する計量分析では、そのような結論は得られていない。これは、インフラ整備の恩恵が、高所得層に向かってしまう側面もあるからである。 (4)アジアのマクロ計量モデル インドネシア・タイ・マレーシア・韓国・フィリピンの5カ国のマクロ計量モデルを構築した、銀行行動を明示的にマクロ計量モデルの中に含め、消費関数・投資関数、輸出・輸入関数、総供給を含む計量モデルを構築し、新宮澤構想によるアジア支援の経済効果を、数量的に比較検討している。銀行部門からの資金供給の減少が、各国の投資に大きな影響を与えていること、アジア通貨危機による為替レートの大きな変動が、マクロ経済にマイナスの影響を及ぼすなどが共通して得られた結論である。できれば、この計量モデルを、中国・ベトナムにも応用したい。 (5)債券市場の未発達 アジア諸国の特徴は、債券市場・株式市場があまり発達しておらず、銀行中心の金融市場体制である。さらに、預金が元本保証されているため、リスクを銀行部門がすべて抱えなければならない体系となっている。銀行の不良債権が増大する中で、国債発行による不良債権の買取が各国ともに進められている。財政赤字の増加は、債券市場の整備を必要としているが、アジア諸国では、その整備がなされていない。Bank-Based Capital Marketの構築が必要であると思われる。国債・投資信託・株式・社債などを銀行の窓口を通じて販売する方法であり。身近な銀行で、さまざまな金融商品を購入できることが、債券市場・株式市場の発展を促す可能性が高いと思われる。日本で進められている国債市場のインフラ整備は、アジア諸国にとっても役立つものと思われる。
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Research Products
(15 results)
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[Publications] 吉野直行: "「アジア経済・金融の今後の課題について」"ファイナンス,財務省. 8月号. 1-24 (2001)
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[Publications] 吉野直行: "「21世紀の国債市場に求められるもの」"にちぎんクオータリー. Autumn. 22-28 (2001)
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[Publications] 吉野直行: "「わが国の資金の流れとペイオフ解禁」"信用金庫. 6月号. 36-40 (2001)
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[Publications] 吉野直行: "「郵貯・財投改革とその展望」"証券アナリストジャーナル. 8月号. 18-30 (2001)
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[Publications] 吉野直行: "「経済再生に金融業の国際競争力強化を」"月刊金融ジャーナル. 1月号. 18-21 (2002)
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[Publications] 吉野直行: "「これからの家計の資産運用」"日本FPジャーナル. Vol.4, No.23. 4 (2002)
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[Publications] 吉野直行: "「特殊法人改革:費用と便益、長期分析を」"日本経済新聞社経済教室. 7月17日. (2001)
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[Publications] 吉野直行: "「国債市場から学ぶわが国の地方債市場」"地方債月報. 1月号. (2002)
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[Publications] 吉野直行: "「地域計量経済モデルによる首都高速中央環状線の事業効果計測」"新都市. 第56巻第2号. 21-29 (2002)
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[Publications] 吉野直行: "「財政投融資制度の改革と地方債市場の今後のあり方」"日本経済研究. No.44. 167-187 (2002)
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[Publications] 吉野直行: "「激変する国際社会と日本経済のゆくえ」"三田評論. 12月号. 10-24 (2001)
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[Publications] 吉野直行: "「年金運用の効率化不可欠」"日本経済新聞経済教室. 3月21日. (2002)
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[Publications] 遠藤正寛: "「日本の通商政策オプションの敬愛的評価と採用可能性」"エコノミックス. 春号. (2002)
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[Publications] Sahoko Kaji: ""Japan's Lost Decade, the Koizumi Reforms and Prospects for the Future", COE Discussion Paper Series 0107"Politique Etrangere. 近刊.
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[Publications] 池尾和人: "日韓経済システムの比較制度分析"日本経済新聞社. 258 (2001)