2011 Fiscal Year Annual Research Report
半流通型2段階加圧熱水処理によるリグノセルロースの化学変換
Project/Area Number |
11F01099
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
坂 志朗 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
NATTHANON Phaiboonsilpa 京都大学, エネルギー科学研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | リグノセルロース / セルロース / ヘミセルロース / リグニン / 化学変換 / 加圧熱水処理 / 加水分解 / 分解挙動 |
Research Abstract |
本年度は、被子植物の単子葉類であるイネ(Oryza sativa)の稲わらと籾殻を用いて、それらの化学組成および半流通型2段階加圧熱水処理(1段目処理:230℃/10MPa/15分、2段目処理:270℃/10MPa/15-30分)での分解挙動の相違について明らかにした。また、これまでの研究で明らかにしてきた、他のバイオマス資源、すなわち裸子植物の針葉樹としてスギ(Cryptomeria japonica)、被子植物の双子葉類である広葉樹としてブナ(Fagus crenata)、被子植物の単子葉類としてニッパヤシ(Nypa fruticans)における研究結果と比較・検討した。その結果、1段目処理ではほとんど全てのヘミセルロースとリグニンの一部が、2段目処理では結晶セルロースの大部分が効果的に分解され、種々の分解生成物に変換されたが、細胞壁の化学組成の違いからこれらのリグノセルロース間で変換挙動に違いがあることが明らかになった。また、稲わらおよび籾殻においては、リグニン由来物として、針葉樹や広葉樹では回収されないp-クマリルアルコールやフェルラ酸が回収された。さらに他のリグノセルロースではほとんど見い出せないタンパク質由来のアミノ酸が回収された。加えて、無機成分が稲わらに多く存在し、2段階加圧熱水処理の1段目処理で多くの部分が溶出、2段階加圧熱水処理後の残渣成分にはシリカ由来の成分が主に残存することを明らかにした。 さらに、半流通型2段階加圧熱水処理による加水分解の酢酸添加の効果についても検討した。その結果、ブナやスギに比べ、イネの化学組成が異なり、比較的ニッパヤシに近似の結果が得られた。 以上のように、2段階加圧熱水法はリグノセルロースを化学変換するのに有力な手法であることを再度確認した。また、種々のリグノセルロースからバイオ燃料を含む多くのバイオケミカルスを効果的に得るための処理法としてこの2段階加圧熱水処理が有効であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目の研究計画に従って、研究は順調に進行しており、主要な目的と結果については満足できるものが得られている。次年度以降においても、さらなる研究の進展が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、半流通型2段階加圧熱水処理によるリグノセルロースの化学変換に関し、イネの稲わらと籾殻を対象に研究を行い、他のリグノセルロースでの結果と比較することでイネの化学的特徴を明らかにしてきた。次年度ではさらに研究を深化させ、地球上に存在する種々のバイオマス資源を有用な多くのバイオ燃料やバイオケミカルスへと化学変換するための基礎的知見を体系的に集積する予定である。すなわち、これまでの4種類のリグノセルロース資源に加え、ムギ、さらにはアブラヤシやココナツなどのヤシ科の植物など、広範な被子植物の単子葉類についても同様の研究を行ない、裸子植物(種々の針葉樹類)や被子植物の双子葉類(種々の広葉樹類)との比較のもと、それらの植物細胞壁を構成する化学組成と分類学上の位置付け、ならびにそれらの相関関係を体系的に明らかにしていく。さらにこれら一連の研究を通して化石資源に替わるバイオマス資源からのバイオ燃料やバイオケミカルスなどの創製への化学変換プロセスを明らかにし、CO2排出ゼロエミッション型エネルギー生産・利用システムの構築に役立てられる学問体系を確立する予定である。 昨今の喫緊の課題である地球の温暖化問題は、地球の生態系を構成しているこれら多くのバイオマス資源との関連が極めて深く、カーボンニュートラルな特性を有するバイオマスを有効に利用することが重要である。本提案の研究は、この緊急の要求に答えるものであり、研究の科学的かつ社会的意義は極めて大きいものがあり、その目標に向けて研究を着実に進めていきたい。
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