2012 Fiscal Year Annual Research Report
クロムの分子地球化学: 同位体分別機構の解明と古環境解析への応用
Project/Area Number |
11F01331
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
高橋 嘉夫 広島大学, 大学院・理学研究科, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
FAN Qiaohui 広島大学, 大学院・理学研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | マンガン団塊 / XAFS / クロム / 微量元素 / 同位体 / 鉛 / 海洋 / 炭酸イオン |
Research Abstract |
Fan氏は、2011年11月に着任後、海洋地球化学、環境放射化学の分野で精力的に研究を推進し、徐々に成果が出始めている。 1.水酸化鉄への鉛およびカドミウムの吸着に及ぼす炭酸イオンの影響 海洋での水酸化鉄に対する鉛(Pb)やカドミウム(Cd)などのイオンの吸着は、これらのイオンの海洋中での挙動を支配する主要な因子である。その際、Pb^<2+>やCd^<2+>が炭酸イオンと錯体を形成し、中性化学種か陰イオンとなることが、(マンガン酸化物ではない)水酸化鉄へのこれらのイオンの濃集の原因であると指摘されているが、その実験的な証拠は十分ではない。そこでFan氏は、拡散セル実験やXAFS法などを駆使し、炭酸イオンとの錯生成がPb2+やCd2+の水酸化鉄への吸着を促進していることを解明しつつある。このことは、Pb^<2+>やCd^<2+>に限らず、炭酸錯体が安定なイオンの海洋中での挙動を物理化学的に理解する上で重要な因子であり、今後の研究の進展が注目される。 2.放射性セシウムのイライトへの吸着に及ぼす腐植物質の影響 福島原発事故により放射性セシウムが環境中へ放出された結果、セシウムがイライトなどの粘土鉱物・雲母に安定に取り込まれる現象が注目を集めているが、その際、環境中に存在する腐植物質がこの取り込みにどのような影響を及ぼすかは明確ではない。この点についてFan氏はこれまでの専門である放射化学的知識を基礎にして、XAFS法、選択的溶出法などを主な手段とし、腐植物質の存在の有無によるイライトへのセシウムの吸着挙動の違い、特に腐植物質が鉱物表面を覆う効果に関する考察、などに着目して研究を進めており、これについて既に論文を投稿中である。 またEXAFSが示す構造データと、RIPなどの放射性セシウムの固相に吸着される強さの指標とがよく相関することを示しつつあり、これまで不明確だったRIPの意味をEXAFS法から明確にした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Fan氏は、2011年11月13日に特別研究員として着任したが、当初計画していたクロムの研究よりも、その時大きな問題となっており、現在でも大きな問題であるセシウムの挙動について、自分の専門を活かして研究を進めることに一部変更したが、そちらの分野で大きな成果を挙げつつある。そのため、当初の研究計画とは方向性が異なってはいるが、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
クロム酸の研究については、当初の目的としていたことが、最近他の研究グループによって報告が出たため、同じ海洋での水酸化鉄との相互作用を主な対象とするが、主に鉛やカドミウムに着目した研究を進めることとした。 特に炭酸イオンとの錯生成の影響は、鉛にとどまらず多くに陽イオンの挙動に関連する重要な問題であり、今後の研究の進展が大いに期待される。またセシウムについては、今後多くの成果が出ていくものと思われる。
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