2011 Fiscal Year Annual Research Report
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11F01707
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤田 正勝 京都大学, 文学研究科, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
MUELLER Ralf 京都大学, 文学研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | 京都学派 / 道元 / 仏教 / 西谷啓治 / 西田幾多郎 |
Research Abstract |
本年度は、とくに西谷啓治が『正法眼蔵講話』のなかで行った道元解釈の特徴と意義についての考察を行った。西谷による道元の『正法眼蔵』解釈の特徴は、仏教独自の用語の語学的解釈に止まらず、道元の思想的なモチーフやテーマを重視する点にある。そうした哲学的な考察を通して、西谷は仏教独自の教義や用語を解釈し、その意義を解明している。この西谷の道元解釈は、単なる仏教学的、あるいは宗学的な解釈の枠を超えて、哲学的な観点から仏教思想の意義を考察する一つ模範的なモデルになりうるものである。何故なら、西谷が道元の内に見いだしているモチーフは、カール・ヤスパースの用語で云えば、人間の生命・生活に含まれている限界経験であり、それは現代哲学においても重要な問題の一つとなっているからである。とりわけ死という限界経験は仏教においても、またG.W.Fヘーゲル以来の西洋哲学においても主要なテーマであり、仏教と哲学とが共有する重要な問題である。 西谷の『正法眼蔵講話』の解釈を通して、西谷が現代の哲学者として前近代の仏教思想をどのように理解し、受容しているか、その具体的な有りようを知ることができた。西谷による道元受容は、龍樹受容と同様、ある時期の仏教解釈という枠に止まらない、一般的・普遍的な問題に通じるものであり、その点できわめて大きな可能性と重要性を持っている。従来、哲学史のなかで取り扱われて来た概念は西洋哲学史のそれに限られていたが、西谷の仏教解釈は、西洋哲学の歴史以外にも哲学史として認めることべき豊富な内容があることを示している。そしてそのような事例の発掘を通して、哲学の内容をいっそう豊かにすることが現在求められていると言うことができるであろう。本研究を通して、その点を明らかにすることができたし、仏教思想と現代の哲学とのあいだを架橋することができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はまず、西谷啓治をはじめとする日本の哲学者たちの道元解釈、仏教理解に関する基本資料と二次資料を収集した。データーベースを形成するによってその資料の蓄積をはかった。それとともに西谷啓治の『正法眼蔵講話』の、道元『正法眼蔵』「現成公案」の巻の翻訳作業を進めた。このような基礎作業を踏まえて、西谷の主な道元解釈の特徴と意義について考察した。とくに『正法眼蔵』の「現成公案」、および「辨道話」と「仏性」の巻についての西谷の解釈の独自性と意義を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、西谷啓治の『正法眼蔵講話』の翻訳と解釈を完了し、現代哲学の立場から前近代の思想を研究するための方法論的な基盤の確立を行いたいと考えている。特に、現代の立場から明治以前の仏教思想・哲学を取り扱う可能性について、原理的かつ歴史的な研究を行う予定にしている。その課題の一つはH.G.ガダマーの解釈学を西洋哲学史を超えて発展させることである。それを基礎にして、西谷を中心とした京都学派の哲学者たちの仏教受容を解釈する方法を確立し、京都学派における道元受容という枠を超えて、それが持つ哲学的な意味を一般的な観点から考察したいと考えている。
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