2011 Fiscal Year Annual Research Report
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11J00120
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 毅 京都大学, 霊長類研究所, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 生物地理 / 気候環境 / 適応 / マカク / 化石 / 鼻腔 / 頭骨 / 系統 |
Research Abstract |
頭骨の外表面の形態変異に関して,マカク属霊長類を対象に,幾何学的形態測定と主成分分析を用いて定量的な解析を行った.その結果,熱帯に生息する種に比べて亜熱帯や温帯に生息する種の方が,同じサイズの個体を比較したときにより丸みを帯びた顔を持つことが分かった.このような相対的に丸い顔は異なる系統群で独立に出現するため,なんらかの選択圧を反映していると考えられる.より丸みを帯びるほど体積に対する表面積が小さくなるので,比較的寒冷な環境下では生存に有利に働いたのではないかと推察している. 頭骨の内部構造の形態変異に関して,コンピュータ断層撮影(CT)を用いてモニター上で仮想的に比較観察した.その結果,外表形態とは対照的に,鼻腔の形態は気候環境よりも系統関係をよく反映することが分かった.鼻腔の横断面は,カニクイザル種群では楕円形,トクザル種群では洋ナシ型,シシオザル種群では細型,バーバリーマカク種群では細い洋ナシ型を示す傾向が見られた.最節約法に基づき鼻腔形態の進化極性を推定すると,マカク属の中で楕円形の鼻腔は祖先的で,洋ナシ形や細型の鼻腔は派生的な状態であることが示唆された.一方上顎洞は種内変異が大きいものの,ニホンザルやベニガオザルでは特異的に矮小化したと考えられた. マカクの化石種・Macaca anderssoni(中国・河南省、前期更新世)とM. speciosa subfossilis(ベトナム・ニンビン省、後期更新世)の系統的位置を推定したところ,両者ともトクザル種群の現生種と近縁である可能性が高いことが分かった.一方これらの化石種の頭骨の外表形態は,比較的寒冷な気候環境に適応した特徴を持っていた.トクザル種群の祖先集団の一部は,前期~中期更新世には中国北部にまで分布域を拡大していたと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請時に記載した「研究の目的」のうち,頭骨の内部と外部にみられる形態変異の適応的・系統的意義の説明に成功した.頭骨の内部と外部の形態の構造的関係に関する研究は,予備的な解析にとどまった.これらの研究成果は学位論文としてまとめ,国際学術雑誌への投稿の準備を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた研究成果を学会で発表するとともに国際学術雑誌へ投稿する.昨年度は形態の種間変異に主眼を置いていたのに対し,今年度はその種内変異の意味についても検討を行う予定である.標本数が少なかった南アジアの種も解析に含める.さらに頭骨形態の気候環境に対する適応的意義の検証をするために,皮膚などの軟部組織がついたホルマリン標本や生体も分析に含める予定である.
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Research Products
(2 results)