2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J00120
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 毅 京都大学, 霊長類研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 生物地理 / 気候環境 / 適応 / マカク / 化石 / 鼻腔 / 上顎洞 / 系統 |
Research Abstract |
本研究は,霊長類における頭骨形態の多様性の生態地理的要因ならびに系統的意義を明らかにすることを目的にしている.昨年度までの研究で,霊長類マカク属における頭骨形態の表面形状の種間変異は気候環境の違いを反映し,その内部形態の種間変異は系統関係を反映する傾向が強いことが分かった.本年度は,データの拡充と解析方法の改良を行い,これまでの推測を支持する結果を得るとともに,以下のような新たな知見を得た. 顔面頭蓋の外表面の形状に関し,顔の長さや突顎性といった全体的な形状変異については,生態環境に対する適応的収敏によって系統情報が失われていることが確認された.とくに,顔の長さはサイズと連動しているが(アロメトリーの影響),同時にアレンの法則にも支配されている可能性が示唆された.一方で,頬骨や上顎の形態変異の一部は,系統情報を比較的よく保持していることが分かった. 顔面頭蓋内部の鼻腔形態の種内変異に関して,ニホンザルの鼻腔は高緯度の寒冷な気候環境に生息する個体ほど,その入り口は狭いが内部では大きく横に拡大する傾向があることが分かった.このような寒冷地の個体に見られた形態的特徴は,鼻腔内の乱気流の発生によって吸気を効率よく温めることに寄与している可能性が考えられる. 中国北部の前期更新世の化石種(Macaca anderssoni)の系統的位置に関して,判別分析とマハラノビス距離に基づく帰属確率を推定したところ,カニクイザル種群よりもトクザル種群に近縁である可能性が高いという推定結果が支持された.ただし,同化石種は,現生のどの系統群にも属さない派生的と考えられる形態的特徴も備えていることが分かり,そのためトクザル種群の直系の祖先ではなく現生種にはつながらない絶滅した系列に位置すると考えられた.
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Research Products
(5 results)