2012 Fiscal Year Annual Research Report
タンパク質内における励起状態反応ダイナミクスの理論的解明
Project/Area Number |
11J00238
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
東 雅大 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2011 – 2013-03-31
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Keywords | バクテリオクロロフィルa / BChl a / 励起状態 / QM/MM-RWFE-SCF / 光収穫アンテナ / 光合成 |
Research Abstract |
近年、光収穫アンテナにおける励起エネルギー移動ダイナミクスは注目を集めており、実験的にも理論的にも非常によく研究されている。この励起エネルギー移動ダイナミクスを分子レベルで理論的に取り扱うためには、光収穫アンテナに含まれる発色団の電子励起状態を正確に取り扱わなければならない。昨年度の研究結果から代表的な発色団の1つであるバクテリオクロロフィルa(BChl a)の電子励起状態は、用いる電子状態計算手法に大きく依存することが判明した。そこで、適切な電子状態計算手法を見つけるために、溶液中のBChl aの電子励起状態について、電子状態計算と分子動力学シミュレーションを組み合わせて研究を行った。 BChl aの第一電子励起状態は、様々な溶媒中で吸収エネルギーがほとんど変化しないが、アルコール溶液中では、アルコールのアルキル基が大きくになるにつれて僅かに吸収エネルギーが減少することが知られている。しかし、何故そうなるのかはよく分かっていない。そこで、電子状態計算と分子動力学シミューレションを効率良く結びつけ、揺らぐ溶媒の平均場の元で溶質の構造を最適化出来るQM/MM-RWFE-SCF法を用いて、トリエチルアミン、メタノール、1-プロパノール中で吸収エネルギーの計算を行った。その結果、B3LYPやCAM-B3LYPなどの既存の電子状態計算手法では、基底状態と励起状態の双極子モーメントの差を過少あるいは過大評価してしまうため、実験の傾向を再現出来ないことが分かった。そこで、CAM-B3LYPに含まれるパラメータを最適化し、実験結果を再現することに成功した。また、BChl aの吸収エネルギーについて溶媒依存性がほとんど見られないのは、基底状態から第一励起状態に遷移した時の双極子モーメントの減少による不安定化と負電荷がカルボニル基に飛ぶことによる溶媒との水素結合の安定化が打ち消し合うことによって、溶質-溶媒間の相互作用が基底状態と励起状態でほぼ一定に保たれるためであることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、当初の予定通り、溶液中めBChl aの励起状態について研究を行った。現在、得られた結果について論文を投稿する準備を進めており、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究で、溶液中のBChl aの励起状態を再現するように決めた電子状態手法は、光収穫アンテナに含まれるBChl aの励起状態についても適用出来ると期待される。昨年度の研究で、BChl aの基底状態と励起状態のポテンシャル関数を効率的に作成する手法を既に開発しており、両者を組み合わせることで光収穫アンテナにおける励起エネルギー移動ダイナミクスを分子レベルで解明することが可能になると期待される。
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Research Products
(5 results)