2012 Fiscal Year Annual Research Report
棘皮動物のプルテウス幼生形態の収斂進化をもたらした分子機構の解明
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11J00274
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
古賀 皓之 筑波大学, 大学院・生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 棘皮動物 / Evo Devo / プルテウス幼生 / RNAseq / De novo transcriptome / イトマキヒトデ / 幼生骨片 / Alx1 |
Research Abstract |
棘皮動物のプルテウス型幼生形態の進化機構を解明する上で鍵となる、幼生骨片の獲得機構についての研究を行っている。これまでの研究で、骨片形成に重要な転写因子Alx1と、vegfシグナル遺伝子が幼生骨片を持たないヒトデ幼生には発現していないことから、幼生骨片獲得にはこれらの因子が幼生期に発現することが必要であることがわかっている。そこで本研究では、alx1やvegfリガンド、vegf受容体をヒトデ幼生に強制発現させることで、幼生骨片獲得に必要であったと考えられる進化的ステップを再現し、その過程で何が起こるのかを検討した。 イトマキヒトデ胚にmRNAを導入することにより、alx1遺伝子の幼生期強制発現を行ったが、表現型には影響がなかった。しかし、何らかの遺伝的変化は起きているのではと考え、次世代シーケンサーを用いたRNAseqを試みた。その結果24個の遺伝子の発現変動が検出され、ウニで骨片形成細胞に特異的に発現することが知られているp19やp16遺伝子と類似した配列を持つ遺伝子が発現上昇していることがわかった。 次に、発現変動が検出されたもののうち、p19とp16を含む10の遺伝子について、骨片形成機能との関わりを調べるべく時空間的発現パターンを調べた。すると、p19とp16は骨片を含む組織での発現が見られたため、骨片形成への関与が示唆された。また、alx1強制発現胚では、誘導されたp19の発現は中胚葉細胞でのみ確認でき、幼生骨片を持つウニのp19の発現と同様のパターンを示した。 以上の結果より、ヒトデ初期幼生におけるalx1の強制発現は、規模は小さいが、幼生骨片獲得に関係のありそうな遺伝子発現の変化を引き起こすことがわかった。またこれらの変化は、表現型には影響を与えないため、進化的には少なくとも中立なであったと考えられる。従って、alx1の幼生発現は、単独では骨片形成を引き起こすことは出来ないものの、更なる変化を許容できるために、複合的な形質の進化の一部として働きうることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
alx1の強制発現によって、わずかながらも骨片形成の兆しが見られたため、目的としている進化の再現が一部達成できていると言える。既知の必要因子である、VEGFシグナルについても同様に解析を進めているため、当初の目的としていた2因子の強制発現とその効果の検証は達成できそうである。
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Strategy for Future Research Activity |
もう1つの必要因子である、VEGFシグナルについても、同様に次世代シーケンサーを用いた検定を行う。alx1と同時に発現させても、表現型に変化は見られない事は既にわかっているので、遺伝的な変化に促進がかかっていないかを調べる。また、alx1、VEGFシグナル以外の因子も必要である事が示唆されているため、次世代シーケンサーを用いた網羅的な発現量比較によってその候補を絞って行く予定である。具体的には、ヒトデの胞胚期と成体骨片形成期、クモヒトデとウニの間充織胞胚(幼生骨片形成期)と成体骨片形成期の発現量比較を行い、棘皮動物の発生のあらゆるシーンにおいて骨片形成の核となる因子の特定を試みる。
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