2011 Fiscal Year Annual Research Report
窒化物半導体の電子状態の解明と制御 : 歪工学による新機能光デバイス実現に向けて
Project/Area Number |
11J00290
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石井 良太 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 窒化アルミニウム / 変形ポテンシャル / 歪み / 一軸性応力 / 反射測定 / 弾性定数 / 励起子 / 窒化物半導体 |
Research Abstract |
本年度は,窒化アルミニウムの6つの励起子変形ポテンシャルのうち2つ(以下,静水圧変形ポテンシャルと呼ぶ)を同定することに成功した.ここで,励起子変形ポテンシャルとは結晶の歪みに対する励起子の応答を記述する物理定数である.通常,歪みテンソルの相互関係において弾性定数が現れることから,励起子変形ポテンシャルの同定の際には弾性定数が既知である必要がある.しかしながら,窒化アルミニウムの弾性定数に関する報告は存在するものの,その値は非常にばらついている.したがって,採用する弾性定数によって異なった励起子変形ポテンシャルの値が得られるのが現状であった. そこで,我々は一軸性応力下における歪みに対する励起子の応答を実験的に調べることを行った.これまでの研究は全て二軸性歪み条件における歪みに対する励起子の応答を調べていた.したがって,歪みテンソル間の関係が共通しており弾性定数の吟味ができなかった.一方,一軸性応力下で歪みに対する励起子の応答を調べれば,弾性定数の値に関する吟味が可能となる.具体的には,一軸性応力下の反射測定を行うことにより,複数の弾性定数の仮定の下で静水圧変形ポテンシャルを同定した.このようにして同定した弾性定数と静水圧変形ポテンシャルで,これまでに報告されていた二軸性歪み下の実験結果を記述すると,ある1つの弾性定数と静水圧変形ポテンシャルでしか従来の実験結果を説明できなかった.すなわち,我々は一軸性応力下および二軸性歪み下の両方の実験結果を説明する,弾性定数と静水圧変形ポテンシャルのセットを初めて同定することに成功した.これらの値は従来報告されているどの値とも異なるものであり,信頼性の高い新しい物理定数セットを世界に先駆けて報告することに成功した.これらの値は窒化物半導体デバイスの特性予測において非常に重要であり,信頼性の高い理論予測を可能にすると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の遂行に必要な窒化アルミニウム単結晶の入手に時間を費やしたものの概ね順調に進展していると言える.現在,実験装置の構築(応力印加装置の改造,新規光源の購入,窒素充填分光系の構築)および試料調達の全てが終わったので,今後さらなる研究成果を報告できると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに,本研究を遂行する上で必要な前準備は全て行ったので,後は実験を繰り返し行い解析を行うだけであると考えている.本研究の目的は,窒化物半導体の電子状態の解明と制御であるので,まずは窒化アルミニウムの変形ポテンシャルを全て実験的に同定する.そして,得られた物性定数を元に理論予測を行うことで,新機能を付与できる構造の可能性について言及する.それと同時に,励起子分子という素励起状態を用いたデバイスを実現する手法を展開するつもりである.これにも,一軸性応力の導入が有効であると考えている.
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