2011 Fiscal Year Annual Research Report
古い超新星残骸のX線観測に基づく非対称爆発および宇宙線加速の観測的証拠の提示
Project/Area Number |
11J00535
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
内田 裕之 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | X線天文学 / すざく / 超新星残骸 |
Research Abstract |
今年度は、銀河系内にある超新星残骸(SNR)のうち、年齢の比較的古い(~1万年)2つの異なるタイブのSNR(G156.2+5.7およびW44)について研究を進めた。G156.2+5.7は太陽系から近傍(1.1kpc)に位置する典型的なシェル型SNRである。G156.2+5.7は、元の星が吐き出した全ての噴出物をX線で観測でき、また視直径約1度とSNRの中でも巨大なためプラズマの空間構造を研究するのに好都合である。我々は日本のX線天文衛星すざくを用いて内部と周辺部の6点を観測し、爆発噴出物の空間分布を初めて明らかにした。また、周辺部の温度からこの天体の膨張速度を求め、これをもとに年齢を7,000-15,000年と見積もった。先行研究ではこの年齢のSNRとしては例外的に粒子加速を示唆するシンクロトロンX線が見つかったとの報告があった。我々はすざくの周辺部のデータを仔細に解析した結果、報告のあったシンクロトロンX線が背景の明るい銀河団からの寄与でほぼ説明できることを示した。我々の見積もった年齢とも矛盾しないもっともらしい描像が得られたことになる。W44はG156.2+5.7とは異なる形態を持つ。大勢を占めるシェル型SNRに対してX線が中心集中した形態をもつため混合形態型(Mixed-morphoIogy; MM)SNRと呼ばれる。年齢はG156.2+5.7とほぼ等しく約1万年と考えられているが、このような特徴的な形態を持つにいたるシナリオは必ずしも明らかではない。近年すざくを用いた観測によって、MM型SNRから過電離状態にあるプラズマが見つかりつつある(この時点で4例)。我々はすざくを用いてW44の明るい中心部を観測し、5例目となる過電離プラズマを発見した。またスペクトルとプラズマの空間分布の解析からこの天体が過去のある時点で電離平衡に到達し、その後なんらかの理由で急冷却したことを突き止めた。W44の起源の星は大質量星であるため、星風によって爆発前に濃い星周物質に包まれていたと考えられる。そこで次のようなシナリオを考えると上記の観測事実を説明できる:爆発直後に高密度の星周物質によって衝撃波加熱で電離平衡に到達し、その後衝撃波が星周物質を抜けたところで急冷却が起き過電離状態を達成した。また、我々はW44からベキ関数で表される硬X線放射を発見した。さらにNANTE2電波望遠鏡によるCO分子雲観測から、硬X線領域と分子雲に明確な反相関が見られることを発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超新星残骸2天体について新発見があり、主著として論文を作成した(うち一編は投稿中)。また共著で複数の論文を出している。学会発表を多数回行い、うち1回は招待講演だった。これらは当初の進捗予定よりむしろ進んでいると見なしている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度にはX線天文衛星すざくを用いて新たに3つの超新星残骸を観測予定である(申請者が主観測者)。これとは別に既存のデータを用いて数天体の超新星残骸を研究中(または予定)であり、それぞれ論文が見込める。研究結果は適宜学会で発表していく。
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Research Products
(9 results)