2012 Fiscal Year Annual Research Report
幾何学的フラストレーションを有する物質群に現れる状態の統一的理解
Project/Area Number |
11J01381
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金子 隆威 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 強相関電子系 / 金属絶縁体転移 / モット絶縁体 / 幾何学的フラストレーション / 量子スピン液体 |
Research Abstract |
本研究の目的は、幾何学的フラストレーションの強い量子系の基底状態や低励起状態の性質を、格子ゆがみ・乱れ・外部磁場といった摂動に対する敏感な応答に注目して統一的に理解することである。とくに、極低温でも長距離秩序が生じず明示的な対称性を破らない量子スピン液体状態の物性を明らかにすることを目指した。第2年度は、量子スピン液体状態が実現すると期待されている有機導体の有効模型、および正方格子上の反強磁性J1-J2ハイゼンベルグ模型を量子数射影多変数変分モンテカルロ法で解析した。以下に、その詳細を述べる。 1.有機導体の有効模型の解析(初年度から継続している研究) 近年、スピン液体状態を実現すると期待される三角格子遍歴電子系のモデル物質として、有機導体のEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2が盛んに研究されている。実験でギャップレス励起とスピンギャップのある励起の共存が指摘されており、注目を集めている。また、理論計算により得られた有効模型では、ホッピングに1次元的な異方性を含むことも示唆されている。我々は特殊な励起構造を理解する足掛かりとして、この物質に必然的に存在するホッピングの異方性と遠方の相互作用に着目した。現実物質で生じる状態を大局的に位置づけて物理を理解する目的で、有効模型に相互作用の大きさを一様にスケールするパラメータおよび1次元的異方性を制御するパラメータを導入し、量子数射影多変数変分モンテカルロ法を用いて相図を作成した。その結果、元の第一原理模型のパラメータが、長周期構造を持った絶縁体相とスタッガードな磁化を持つ反強磁性絶縁体相の相境界近傍に位置することが分かった。また、基底状態からわずか温度1K程度しか離れていない低エネルギー領域に、多数の準安定状態が実現していることも明らかになった。 2.正方格子上の反強磁性J1-J2ハイゼンベルグ模型の解析 正方格子上のJl-J2量子スピン1/2ハイゼンベルグ模型では、J2がJl/2程度の領域において、スピン液体状態が実現すると期待されている。そのスピン液体状態を特徴付けるスピンギャップが開いているのか、閉じているのかについては、現在も活発な議論が続いている。我々は、スピンギャップの閉じた状態と開いた状態を公平に扱うことができるバイアスの少ない変分波動関数を構築し、この模型の基底状態を高精度に解析した。その結果、スピンギャップの開いたスピン液体状態を見出し、密度行列繰込群の先行研究とコンシステントな結果を得た。また、スピン量子数・全運動量・格子の点群操作に付随した量子数射影を考慮することで、既存の高精度計算では得ることが出来なかった多数の低励起状態を求めることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第2年度は、実験でスピン液体が現れている有機導体の有効模型を解析した。現実物質で生じる状態を大局的に位置づけて物理を理解する目的で、相互作用の大きさを一様にスケールするパラメータおよび1次元的異方性を制御するパラメータという「摂動」を導入した。高精度計算の結果、長周期構造を持った絶縁体相とスタッガードな磁化を持つ反強磁性絶縁体相の相境界近傍という複数の準安定状態が拮抗した領域で、スピン液体状態が実現している可能性を提唱した。また、スピン液体状態が実現する正方格子上の反強磁性J1-J2ハイゼンベルグ模型の低励起状態についても、新たな知見を与えた。外場応答によって幾何学的フラストレーションの強い系に現れる状態を統一的に理解する、という当初の研究目的を達成しており、おおむね順調に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
正方格子上の反強磁性J1-J2ハイゼンベルグ模型のJ2がJ1/2程度の領域において、スピンギャップの開いたスピン液体状態が実現することを我々は確認している。今後は、電荷ゆらぎがこの状態に与える影響を量子数射影多変数変分モンテカルロ法によって詳細に調べる。変分モンテカルロ法を用いた先行研究が、J1-J2ハイゼンベルグ模型と同等な相互作用を持つハバード模型において既になされている。クーロン斥力を弱めるとスピン液体状態は反強磁性絶縁体に転移し、その後金属状態に転移することが提唱されている。そのスピン液体状態を特徴付けるスピンギャップの有無は明らかになっておらず、電荷ゆらぎでスピンギャップの閉じたスピン液体状態が実現する可能性がある。シングレットおよびトリプレット状態を直接計算することで、この新しいスピン液体状態が実現するかを吟味する。同時に、三角格子ハバード模型の基底状態も量子数射影多変数変分モンテカルロ法によって詳細に調べる。
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Research Products
(12 results)