2011 Fiscal Year Annual Research Report
日中英の難易・可能構文の認知論的・語用論的研究―叙述モードに基づく分析―
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11J01720
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大江 元貴 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 対照言語学 / 可能表現 / 難易表現 / モダリティ / 行為と属性 / 認知過程 |
Research Abstract |
本研究は、日中英の難易・可能表現について、話者がどのように事態を捉え属性表現として言語化するのかという認知的要因と、どのような発話意図・文脈が構文選択に影響するのかという語用論的側面を統合した形で体系的に記述することを目指すものである。本年度は難易表現と可能表現を統一的に分析するための基盤づくりと、語彙的な可能表現形式を複数有する中国語の分析を中心に研究を進めた。具体的には以下の2点を明らかにした。1、難易表現と可能表現はこれまでその共通点が意識されず全く独立して分析が行われるか、あるいは逆に「可能性を表す表現」として一括りにされてきたが、日本語の難易表現と可能表現を比較することで、両表現が「行為主体の働きかけによる事態生起」という認知基盤をベースとして共有しながらも、どの部分に注目するかという点において相違点が見られることを明らかにした。具体的には、難易表現は対象への働きかけ過程における知覚経験が意味の焦点になっているのに対して、可能表現(能力表現)は働きかけによって生じる事態生起に意味の焦点があることがわかった。2、1の研究結果から、可能表現が「事態生起」に注目した表現であることが明らかになったが、中国語の可能の助動詞"能"と"会"の違いについて認知論的に考察を行った結果、事態生起をどの要素と関連付けて捉えるかにおいていくつかのバリエーションがあることを明らかにした。具体的には、"能"は事態生起を「働きかけ」との関係で捉えるのに対して、"会"は事態生起を「場」との関係で捉える形式であることがわかった。以上の内容は、それぞれ2011年日本語教育国際研究大会と日本中国語学会第60回全国大会において口頭発表を行った。これらの研究成果は、可能表現と難易表現を統一的な枠組みで分析することの可能性を示しており、次年度以降の対照研究への応用も期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初、難易表現に限定して研究を進める予定であったが、研究計画を変更し、可能表現と難易表現の対照および中国語の可能表現についての分析を先に進めた。それによって、可能表現と難易表現を統一的に扱う枠組みの基盤づくりができ、また中国語の可能表現を分析したことで、可能表現の下位分類を提案することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定を変更し、本年度に可能表現と難易表現の対照、および中国語の可能表現の分析を先に進めたため、次年度では当初、本年度に実施する予定であった日中英の難易表現の対照を行い、中国語の可能表現の分析で得られた、属性の認知過程の違いに基づく下位分類の指標が難易表現にも適用可能であるかについてさらに分析を進める。 今年度は日本語と中国語の分析にとどまったが、次年度以降では英語の対応する構文も分析対象に加え、可能表現・難易表現における属性の認知過程の言語差についてより精密に分析を進めることで、本研究の提案する枠組みの有効性を検証していく予定である。
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Research Products
(2 results)