2012 Fiscal Year Annual Research Report
日中英の難易・可能構文の認知論的・語用論的研究-叙述モードに基づく分析-
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11J01720
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大江 元貴 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 対照言語学 / 可能表現 / 難易表現 / 行為と属性 / 認知過程 / 能力主体指向 / 推論と数え上げ |
Research Abstract |
前年度は日本語,中国語それぞれの言語内での可能表現の類似形式の比較が中心であったが,本年度は言語間の対照に着手するとともに,難易表現に関する研究を行った。具体的には以下の2点を明らかにした。1、能力主体を「ニ」で標示する日本語の「『ニ』標示可能文」と,中国語で助動詞"会"を用いて表す「"会"可能文」の比較を行った。この2つの可能文が、(1)状況可能を表せない,(2)行為のあり様を具体化する副詞類と共起しない,(3)無情物を主語にとれない,という共通の特徴を持つことを明らかにした。さらに行為主体としての主語を背景化し,能力主体としての主語を前景化した「能力主体指向の可能表現」という可能表現の一つの類型的意味を提案し,このような概念を導入することで,上記の事実が統一的に説明できることを示した。2、難易表現に隣接する形式として「傾向」の意味を表すとされる「-がちだ」をとりあげ,「-やすい」との比較を行った。考察の結果,両形式の異同は傾向判断に至る認知過程の違いによって説明されることがわかった。具体的には,「-やすい」は事態の進展に関わる情報からの推論によって導き出される傾向を表し,「-がちだ」は事態の存在の数え上げによって導き出される傾向を表す。この違いは前年度の研究成果や1、の研究成果にあるような,「認知対象の中で何が注目されるか」 という観点だけではなく,「話者のどのような認知行動によって属性が導き出されるか」という観点が,「事態をどのように捉え属性表現として言語化するのか」を明らかにする上で重要になるということを示すものである。以上の内容は,それぞれ日本言語学会144回大会と関西言語学会第37回大会において口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は昨年度の中国語の可能表現に関する研究成果に加え、日本語の可能表現を考察対象とし、日本語と中国語の可能表現の対照研究の成果を国内学会において発表した。'さらに、前年度に十分に扱えなかった難易表現についても認知過程に基づく分析が有効であることを示す研究成果を国内学会において発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に向けて、次年度ではこれまでの研究成果を統合する形で博士論文としてまとめる予定である。当初の研究計画では分析対象とする予定であった構文の中には、現時点で扱えていないものがあるが(日本語の無標識可能構文、英語の中間構文、中国語の可能補語構文)、これについては無理に考察対象を広げることで議論が拡散しないよう、場合によっては考察対象から外すことも視野に入れ、博士論文執筆の過程において検討していく。 また、最終年度においてはこれまでの属性の認知過程に基づく分析に加え、語用論的要因と構文選択との関係の記述を進めていく予定である。
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Research Products
(2 results)