2011 Fiscal Year Annual Research Report
実験・計算・分光学を組み合わせた多成分連結反応の機構解析と反応開発
Project/Area Number |
11J01857
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
駒川 晋輔 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 多成分連結反応 / 反応機構 / ニッケル / 触媒反応 / 理論計算 |
Research Abstract |
多成分連結反応は短工程かつ効率的に目的の生成物を与える有機合成上意義深い反応である。しかし反応系内の複雑さから,反応機構の解明には未だに困難を要する。計算化学や分光学を駆使して多成分連結反応の反応機構を解明する事ができれば,より効率的な反応の開発及び新たな反応の発見につながると期待される。本年度はニッケル触媒を用いた電子欠乏性メチレンシクロプロパンとアルキンの7員環形成反応について,理論計算の観点から解析を試みた。 まず,アルキン及びメチレンシクロプロパンからのニッケル錯体の形成反応について計算を用いて検討を行った。反応の選択性は置換基の立体的及び電子的要因によって決定していると考えられ,計算結果からもその選択性が示唆された。また,従来はアルキン2分子が先にニッケル錯体を形成し反応が進行すると考えられていたが,理論計算によりメチレンシクロプロパンとアルキンとから先にニッケル錯体を形成し,次いでアルキンが挿入する機構が支持された。反応の律速段階は初期のニッケル錯体が形成する段階であり,ニッケルと基質との相互作用が反応の進行に大きな影響を与える事が判明した。電子欠乏性メチレンシクロプロパンはニッケルとの相互作用が比較的強く,また反応の進行に伴う変形エネルギーが小さい事から優先して反応していると考えられる。本結果は基質による反応制御が効果的に進行している事を示しており,反応設計を行う上で重要な知見であるといえる。計算化学を駆使した触媒反応の機構解析は,スクリーニングなど実験結果に依存していた反応開発を事前に予測して設計,デザインしながら開発を行う糧になると期待できる。 また,現在アート錯体を用いたフタロニトリルの四量化反応による効率的なフタロシアニン合成についても検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ニッケル触媒を用いた環化反応の反応機構について,現在まで未解明であった点が計算化学を駆使する事により有用な知見が得られた。また,それぞれの錯体の安定性や反応性について理論計算の観点から実験事実を裏付ける結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今回得られた知見を元に,新たな多成分連結反応の開発を目指す。反応の選択性については解明しつつあるものの未だ判明していない部分があるため,引き続き検討を行う。また,分光学的手法も取り入れ,より詳細な反応機構の解明に取り組む。理論計算により得られた情報を最大限に活かし,新規反応の開発を試みる。さらに今後は海外留学なども視野に入れ,自身の能力の向上及び更なる研究の推進に向けて取り組む予定である。
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